「愛乃は十分落ち込んでるね」
ふたり以外に誰もいないトイレで、満足そうな表情で言ったのは梨里だった。

「確かに落ち込んでるけど、授業はちゃんと受けてる。数学のあの数式は授業を受けていても難しい問題だったのに、全然悩んでなかった」

鏡の前に立つ柚柚が悔しそうに親指の爪を噛む。
「あの数式、私にはサッパリだったなぁ」

「愛乃は落ち込んでるけど、勉強に支障がでるほどじゃなかったってことだよ。そんなの、あの汚い犬を誘拐した意味がない!」

柚柚が洗面所を両手でバンッと叩く。
その音に驚いた梨里が「そうだよね。こんなんじゃダメだよね」と、慌てて同意した。

「愛乃が勉強できなくなるためにはどうすればいいと思う?」