──奏矢と矢絃が来たのは、ほんの少し前。
やたらと広く、いい石で作られたと素人目でも分かるような風呂場で、休まるような休まらないようなお風呂の時間を過ごし、ドレッサーの前で髪を梳かしていた時だった。
不意にノックされたドアに、慧か?と頭を過り立ち上がるも、オートロック式の鍵が解除されたのを見て、再び腰かけた。
『……ふー、セーフセーフ。よ、お嬢』
『お菓子持ってきたよ』
主の部屋の鍵を執事二人は持つことを許されているため、それを使ったのは分かる。
だけど、全く悪びれる様子がないのもどうしたものか……
『警備員が居たのに、どうどうと来たの?』
『なわけねぇだろ?な、矢絃』
『うん。午後十時ジャスト……警備の交代で隙がうまれるから、観葉植物とかを利用しながらここに来れるってわけ』
漫画でこういうのあった、とかなんとか……珍しくキリッとする矢絃。その手には袋いっぱいのお菓子。
こちらに歩いてくると、二人はベッドへ座った。



