──自室に戻るなり、今帰ってきましたと言わんばかりに頬を染めたままの二人。
話がある、と隅の方へ向かおうとしていたところに私は報告書を手にしながら声をかければ、ひとりは訝しげに顔をあげた。
『……話?』
『あなたたちの──』
『お嬢様っ』
なんの前置きもしない私に、佐藤が止めにはいるも、
『まわりくどく言っても仕方ないでしょう』
『それはそうかもしれませんが……』
圧倒的言葉数の少ない状態の二人への、ご機嫌とりの言葉とか、挨拶云々はこの際皆無。
私の手元には"これ"があるんだから。
これ──すなわち報告書を二人の前へと出せば、すぐさま目を見開かれた。
……ま、当然だろう。
自分のことを調べられて、喜ぶ者はそういない。
『……なるほど。俺らの育ってきた環境を知って、見下そうってことか?笑いたきゃ笑えよ』
『奏矢……』
別にそんなつもりは毛頭ない。
けれど、顔をそらす奏矢という男の子はちょこっとひねくれ要素を持っているのは、理解できていた。
だから、強い言葉を返されるのは想定内済み。
『あなたたちを、この紙切れに載ってるもとへ送り届けたっていいのよ。今、すぐに』
『……っ』
意地の悪い言い方と言われれば、潔く認める。むしろ今、優しく諭そうとする方が彼らには逆効果な気がするから。
私はこれでいいと感じた。
勿論、送り届けられる場所を知っているからこそ、顔をしかめる二人。
……はいわかりましたって、顔ではないのは確か。
私だって、意地の悪いことばかりの言葉を並べるつもりはない。
『……だけど、また橋の時みたいな気持ちにさせることは避けたいの。なにがなんでも』
私の言葉に佐藤が小さく頷き、弟である九重矢絃が私を見据えた。



