この状況で何を言うのか身構えれば、奏矢はシュルシュルと胸元のネクタイを外した。
一瞬にして、嫌な予感が……。
引きつった顔で奏矢を見上げれば、ニッと口角があげられ、案の定なにも出来ない私の視界を塞いできた。
「ちょっとっ……なんでっ塞ぐの」
「俺の感覚、覚えさせるため」
宛てがわれたネクタイを外そうと手を伸ばすも、その手はベッドへと押し付けられ真っ暗な視界の中、ベッドが軋んだ。
奏矢が何をしているのか分からない。
にわかに近づいた息遣いに鼓動が早鐘を打つ。
すぐそばで、耳元で、奏矢が息を吸ったのを感じれば、
"じっとして、俺のことだけ考えろ"──
"美青"
それが俺へのご褒美ってことで。
……急に耳元で囁かれた声に、体が硬直する。
ずるい。
今、このタイミングで名前を呼ぶなんて。
全力で抵抗しようとしていたのに、力がスッと抜けてしまった。
こういうのを、不意打ちというんでしょう?
「……ってことで、よろ。お嬢」
よろ、とは──
なんて、いくら私でも理解出来る。
顔にかかる吐息に、胸が高鳴った──
……ほんのわずかなリップ音が耳を掠め、触れるだけの口付けが……。
比べてはいけない。
比べてはいけないけど、矢絃にされた時と全然感じ方が違う。同じような触れ方でも、どこか違う。
"……どう?お嬢に、俺の初めてあげたんだけど"
また耳元っ……。



