◇*◇*◇
慧との電話を奏矢のもとへ行くために切り上げた。
もし、部屋に行って佐藤が居たら、また帰されそうになるかもしれない。けど、そうだとしても一言だけは伝えたい。
廊下を進むたび、速度を上げる。
角を曲がれば……
「っ……奏矢!?」
曲がろうとした寸前に見えた人影に、急ブレーキをかけて止まると、だるそうな奏矢がいた。
私だけ驚いて、奏矢は全く驚いた素振りは見せない。
「お嬢……?なんでこんな時間に彷徨いてんだよ」
「えっと、その……ちょっと……」
あぁ、顔を見てしまうとたった一言でも喉につっかえる。
……ほら、目が泳いだせいで奏矢の眉が寄せられた。
はやく、はやく言わないと、
また"来るな"とか"戻れ"って言われてしまう。その前に言わないきゃ、いっきに一言、
言えばいいだけだ──
「あのね奏矢、矢絃がさっき言ったことは……その、なんというか……」
頭の中では言うことが分かってるのに、なんだかうまいこと言えない。
なんで、なんでっ?
焦ってるせいか、うまく回らない口を一度閉じ拳を握りながら、もう一度開いた。



