◇*◇*◇
何日経った?
奏矢のあの姿を見てから。
奏矢は何も言わない。
矢絃にも、私にも。
何事もなかったみたいに、完璧な執事として振る舞っている。
矢絃に突っ込んだり、我儘聞いたり。
春夏冬さんのフォローをしたり。
私の部屋でお菓子を食べたり。
だりぃ、と言って私へ髪を乾かすよう求めたり……。
あまりにも、いつも通り。
逆にその姿が、ずしりと胸を重くする。
「──さん、一条さん」
頭上から振ってきた声に、咄嗟に反応し顔を上げれば、私を訝しげな表情で見下ろす先生がいた。
「どうしたの?」
「……っすみません」
「珍しいわね。でも、しっかり話は聞いて下さいな」
はい、と弱々しく返事をしてペンを持ち直す。
……奏矢だったら、悩みのひとつやふたつで注意されるなんてこと、ないだろうに。
私、全然ダメダメだ──
「──どうした?本当に珍しいな。美青が授業中に注意されるなんて。しかも、何回か声かけられてたのに気付かないなんて」
授業の合間の休みに、すかさずおかしな私のもとへと来た。
すぐに、なんでもない。そんな顔を向けたけど、慧はなんでもないわけないだろ、と言いたげに眉を寄せる。
「なんでもない、とは言わないわ。でも……今は、言えないの」
……心の中ではごめんなさいって思う。慧にも話せないから。
聞いてくれたら、この気持ちも少しはよくなるのかもしれない。
けど、こればかりは他言出来ないもの。



