「奏矢、どうかしたの?」
「なんでもねぇよ。ほら」
雑に手を掴まれ、引き寄せられる。
「……っ!」
こんな初歩的な動作、毎度のようにやってきたはずなのに……
いっきに奏矢の手が触れる場所から熱くなって、異常なくらい固まってしまった体。
「お嬢?」
すぐそばで、奏矢の視線を感じる。
見れない。今見たらいけない気がする。
「一条さん、どうかしました?」
「な、なんでも。もつれただけです」
はぁ……。
奏矢に対してはぎこちなさが出てしまうらしい。今だけは、先生に声をかけられて良かったと思う。
息を吐いて再び練習を、と思えば近くにいた慧と目が合いニヤリとされたから、目を細めておいた。
秋葉さんから春夏冬さんに交代するタイミングなのか、深々とお辞儀をする春夏冬さんに慧はやけに笑いながら頭を掻く。
あれ、照れてるんだわ。人のことみてニヤニヤしてたのに。お互い様じゃないの。
「お嬢、またなんか言われんぞ」
「分かってるっ」
私も慧も、今自分の好きな人とこんなに近い距離にいる。
ドキドキも何もせず、うまく平静を装うことは中々難しいのかもしれない。
……でも、いくら装えなくともバレないようにしなきゃ。



