『……お嬢様?はっ、ふざけんな……金持ちが底辺の人間に傘のお恵みってか?……ざけんな……ふざけんなよ!』
俯きながら言葉を吐き捨て、傘を思い切り蹴り上げられると、風の勢いのせいもあってか、橋の下……川へと落ちていった。
その傘のゆくえを見たのか、ずっと背中を向けていたもうひとりの男の子が振り向く。
『やめなよ、奏矢。……ごめんね、傘。だめにした』
『大丈夫……問題ないわ』
この子の目は腫れていないけど、変わりと言うのはあれだが、隈がすごい。
そして、傘を蹴った男の子を宥めるように振り向いた男の子は寄り添うと、蹴った男の子は顔をしかめた。
──あれ……
よく見れば、二人とも黒服……
雨にかき消されていたから分からなかったけど、微かに線香のにおいがして……
すぐに合点がいった。
目が腫れ、黒服の姿の理由が。
理解してしまうと同時に急に言葉が見つからなくなった。



