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奏矢と矢絃。

この二人が家に来たのは、もう五年ほど前になる──



雨が降る夜……パーティーの帰り道、二人が橋に足をかけたところに出会したのだ。



『危ないよ』


ドレスが濡れることなんて気にもとめず、二人を傘にいれれば、橋の柵にかけていた足がおろされる。


『……んだよ。話しかけんな』


ひとりの男の子が肩越しに振り返り、私を睨み付けるように見据えた。

鋭く刺すような瞳に、一瞬は手を引っ込めてしまいそうになるも、私の手は彼らを傘にいれたまま留まる。

だって……



男の子の目が、赤く腫れていたから──



一目で泣いていたことが分かった。
それも今ではない、長い間泣いていたとさとらせるくらいの腫れ方だ。


『……この傘、よかったら使って?』

『いら──』



『お嬢様っ……!!濡れてしまいますよ……!』


車を止めさせ、急に外に出た私を側近の佐藤が傘を手に走ってくる。
そちらに目がいき、大丈夫だと手で制していると、伸ばしていた手が叩かれ、差し出していた傘が地面に落ちた。