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お坊ちゃんとの勝負がついてすぐ、佐藤には勝利の連絡をし、落ち着いたらまた帰ると言って週末、家へと戻ってきた。



「佐藤ー!」

「お嬢様」


迎えられる側だけど、お帰りの挨拶よりも先に佐藤へと抱きついた。


「佐藤さんずりぃ」
「佐藤さんずるぅ」


荷物持ちの奏矢と矢絃は、口を尖らせ佐藤を見ている。


「これは私の特権です。お嬢様の前で執事がそんな顔をしてはいけませんよ」

「とかいう佐藤さんも顔緩んでますよね?」
「うんうん。オレもそう思う」


かなやいの指摘に佐藤は咳払いをする。
そんな佐藤を見上げれば……確かに、と思わざるを得なかった。


「そ……それは失礼。ですが、緩んでしまいますな」

「珍しいね佐藤。私は嬉しいけど」


なにかと忙しい執事長の佐藤は、こんなに表情筋を緩ませることはほとんどないから。


「奏矢、矢絃。今回の件、よくやってくれました。……ありがとう」


佐藤は一度、すみませんと私を離し、二人を抱きしめた。


「え……ちょ、佐藤さん!?」
「し、執事長からのハグイベント?」


佐藤の腕の中で動揺する二人。だけど、佐藤はよりぎゅっと奏矢たちを抱きしめる。


「……頑張ってくれた、"私の孫"への愛情表現ですよ」


『っ……!!』


佐藤の言葉に、二人は目を見開いた。

そしてぎこちなく泳がせていた手はゆっくり、ゆっくりと佐藤へと回ったのだった。