「奏っ──」


急な視界の変化に驚き、奏矢を退けようと肩を押すも被さる奏矢はビクともしなくて……。

見上げた奏矢は私を見下ろす。


「俺は……俺とお嬢の関係を邪魔するやつも壊しにくるやつも……片っ端から全員ぶっ倒す」


その目はいつも見せる余裕のある瞳ではなく、怒りにもえるギラついた瞳だった。

出会ってから今まで……こんなに怒りをあらわにする奏矢を私は見たことがない。

退けようとした手の力をゆるめれば、奏矢は私の手をゆっくり掴み、力を込めて握った。






「大事な女、取られてたまっかよ──」







──っ……!!



……多分、


というより確実に分かりやすく、私の心臓が跳ねた。
緊張とかの高鳴り方とはまた別物の鼓動の鐘が……大きく音を立てた。


「……なに今更赤くなってんだよっ鈍感お嬢サマ?」


自分の鼓動に驚き口を半開きにした私を見下ろす奏矢は、クスクスと笑う。
いつもなら『赤くなってない!』と言い返せる威勢があるはずなのに……奏矢を見上げるだけでいっぱいいっぱい。


「珍し……。ま、そーゆーことだから。お嬢はただ、俺のことだけを考えて見てろ。そうすりゃ俺は強くなれる。……相手がお坊ちゃんだろうが誰だろうが、負けたりしねぇ」


じゃあな、とゆっくり離れていった奏矢はドアが閉まる瞬間、小さく笑っていた。