「──お嬢」


「っ……奏矢?」


奥の方から、奏矢の声がして。


もういつもなら部屋に戻っているのに。
勝負があるからって、夜な夜なお菓子パーティーも私の部屋に来ることさえ控えていたかなやい。

だけど奏矢は私の部屋の中に居る。


「びっくりしたじゃない。待つなら電気くらいつけて待ってたらいいのに。ちょっと待って今……」


「いらねぇ、すぐ戻る」

「でも……」

「いいから、そのままこっちに来い」


カーテンもしめた暗闇の部屋を声を頼りに進めば、椅子に座るシルエットが見えてきた。


「矢絃は?」

「シミュレーションしながら寝た」

「そう……それで?奏矢だけで来るなんて珍しいけど、どうしたの」

「学園のサイトに、あの野郎が載せたやつ見たか?佐藤さんから連絡きて見た」


暗い中、奏矢がこれ、と例のでかでか広告の画面を私に見せる。


「ええ、ついさっきね。サイトに載せて貰う交渉が気になるところだわ。……でも、あれだけ大々的に観に来てくれって言うのはお坊ちゃんには相当な勝算がある、ってことでしょうね」

「ああ」


奏矢がスマホをしまえば、また視界は真っ暗に。
でも少しは暗いのに目が慣れて、奏矢の姿は分かるようになった。