「……そんな強く出ていいのかな」

「さっさと用件を言……ってくださる?」


言え、なんて言いそうになった。

ああ、会話が長引くとお嬢様としての口調が保てなくなってくる。
周りにお嬢様たちがいる。今日は我慢、我慢。




「"縁談話だよ"──君と僕のね」



──は?



後ろの慧たちからも『は?』と声がして。


「っふざ──」

「奏矢」
「……お嬢」
「おさえて」


私より前に出て、素の奏矢をこんな場所で見せるわけにいかない。
矢絃と二人で掴んだゴールドバッチをここで無駄にするわけにも。


「おお怖い。やはり荒々しい野良猫はそばに置くべきではない。僕との縁談が進み次第、君たち二人即クビだよ。大丈夫、彼女とはうまくやっていくさ。僕は……」


気の強い人ほど懐かせるのが楽しみなんだよ──


そう、お坊ちゃんは楽しげに笑う。


だけどこの男、本当に上手だ。

また【野良猫】と口にした。


「あなた、本当……私の逆鱗に触れるのがお好きみたいだな」

「逆鱗?なんのことかな。君のお祖父様からなかなか相手を決めない孫と見合いをと直々に頼まれたのにその態度かい?それに、断りと無視防止ですでに式の話をしているよ」

「式?」

「やだなぁ、結婚式しかないだろう?」



結婚式って……


「え……嘘だろ?美青っ。わたしこんな男に渡したくないぞ!!」



縁談話を無視を続けた結果がこれ?まさかそこまでしていたなんて。


これが、絶望ってやつなの……?