近くのテーブルに行くためドレスを翻せば、少し前を歩いていたお坊ちゃんがハンカチを落とした。

見て見ぬふりをしたくとも、目の前で見てしまっては……そう思い、ハンカチを拾う。


「あの、落としましたよ」

「……え?あぁ、すまない」


振り向いたお坊ちゃんは、驚いた顔をすぐに爽やかな笑顔に変えてハンカチを受け取った。


──どこの人か知らないけど、この容姿でノーマークは意外かも。


「ありがとうございます──……一条美青さん」


いいえ、そう言うために口を開くも私の全身は警戒するパラメーターがいっきに上がった。

このお坊ちゃんから今見たばかりの爽やかさが一ミリも感じられなく、獲物を見るような瞳で私を見据えたからだ。

これは、何か言いたいのだろう。


「……私に何か?」


踊ろう、なんていう言葉が返ってくるわけがないのは明らか。
お坊ちゃんは周りを確認してから、私との間合いギリギリまで詰め、耳もとで話し始める。


「少々調べさせて頂きましたが、一条家で何故あのような二人を、大事な一人娘のそばに置いているのか理解に苦しみました」


あの二人──奏矢と矢絃のこと。


「それは……どういう意味でしょう」

「人目がある中で口にするのは貴女の顔をつぶしかけませんからね、こちらを見ていただければと」