「……奏矢、手どけてよ」
「佐藤さんに言われたろーがっ……健全にって」
「そんなのフラグじゃん。てか、よけて」
軽く奏矢の手を叩いて払う矢絃。
奏矢のことを一瞥すると、深いため息をついて自身の布団へと戻っていく。
「分かったよ。今度宿当たったらオジョーと二人で来るから。そん時食べるし」
夏だというのに、頭まですっぽり布団をかぶって……これはふて寝。
そして奏矢はそんな矢絃を見て、目を細める。
"食わせねぇし"と呟いて。
「……寝よ、奏矢。明日、佐藤との待ち合わせに寝坊して遅れるのは嫌だもの」
「あぁ……」
こちらも不機嫌度が少々上がってる様子。
だけど奏矢も自分の布団へ戻った。
……これで、っといけない。
崩れた胸元を正し、布団をかぶれば……
もぞもぞと両側から手が入ってきて。
今度は何かと思えば手探りで私の手を繋ぎにきた、かなやい。……しかも同時に。
お互いに同じことをしているって分かってるのかは知らないけど、矢絃にがっちり握られ、奏矢には小指だけを絡められた──
私だけ寝返り打てないことになるけど、いいことにしよう。



