いつもの奏矢らしくない、なんて一言添えようと思ったけど、奏矢の瞳が揺れていたのを見て言葉を呑み込んだ。
「ただ、答えてほしいだけだ」
「別に、急にどこかに行ったりはしないけど……どうしたの?」
「……なんでもねぇよ」
なんでもねぇ、そういう割にはまだ、揺れたままの瞳。本当にどうしたのか。聞いても多分はぐらかされる。
どっか、奏矢の中でそれがどこを指すのか分からないけど、今の私の気持ちを伝えれば奏矢は納得する答えが得られるのかな。
「行かないよ」
──【複数、縁談の話をしたのに返事がないとは、何か気にくわないことでもあるのか?】
例えこの旅行が終わって、慧のように見合い写真を持ってこられても。
簡単に写真の男性のもとへ行くことも。
「本当に?」
「本──」
本当に、そう告げようとした時、矢絃が寝返りをうったようで私の布団の中へ入ってきた。
抱き枕だとでも勘違いしてるのか後ろから抱きしめられ、身動きが取れない。
「……矢絃。お前起きてるだろ」
「え?」
奏矢が起き上がって後ろの矢絃を覗き込めば、
「寝てる……」
「嘘つけ」
「や、矢絃暑い」
「クーラーの温度下げて奏矢」
「なんで俺が……」
そう言いながらも手探りでリモコンを操作する奏矢。



