──矢絃が溺れそうだから温泉を早めに切り上げて部屋に戻れば、隣からすでに矢絃の寝息と寝言が聞こえてきて、平和そうな寝顔に和む。
もう夢の中であろう矢絃にも奏矢にもおやすみと言って、明かりを消してもらい布団の中へ。
目を瞑るも矢絃の、
『食べる』『それちょうだい』『あげない』っていう食べ物に関しての寝言がすごくて眠れなくて。
起きてるんじゃないかって疑いたくなるくらい会話のような寝言に、段々と可笑しくなって笑っていれば奏矢が肘をついてこちらを向いた。
「……夢ん中でも食ってんのか矢絃のやつ」
「そうみたい」
呆れ顔の奏矢は、マジかよと呟く。
「普段あまり聞かないのに珍しいよね」
「俺もだけど、バイキングが相当楽しかったんだろうな。佐藤さんの名前は借りたけど、三人だけでこういうの初めてだしよ」
「うん。……いい思い出になったよね」
「思い出……」
いつも執事として動いてる二人にしたら、いい休暇になっていれば……そう思う。
もっと大人になれば、このような時間を作ることが難しくなってくるだろうし。
「……なぁ、お嬢」
「なあに」
「お嬢は……どっか行ったりしねぇよな……」
「……え?どうしてそんなこと聞くの?」



