──いくつか目星をつけた私たちは、割り当てられた部屋へ向かった。
荷物持ちは大丈夫だと断りを入れて、奏矢に鍵を開けてもらい中へ。
「わぁ……畳っ!……いぐさのいい香り」
古民家宿っていうから畳だとは思っていたけど、おまけに見晴らしもよくてすごく落ち着く雰囲気の部屋で嬉しい。
「胃……草?なんだそれ。矢絃、検索」
「いぐさ、いぐさ……」
適当に荷物を端において、二人は座椅子へと座り何やらスマホを覗き込んでいる。
その姿を肩越しに見て、私は景色を眺めていた。
「……へぇ。つかお嬢。飯前に風呂行く?」
「あ、オレ行きたい」
「そうね、晩御飯前に入っとこうか」
そうと決まれば、浴衣を手に温泉へ。
バイキング形式のご飯で何を食べるかと話しながら向かい、青と赤の暖簾が見えてきた。
「んじゃ、一旦ここでな」
「うん、って……ちょっと?何当たり前のようにこっち来てるの矢絃。ここからは女湯です」
ちゃっかり私の方についてきた矢絃。気配に気付き暖簾の前で止まった。
「オレ、今だけ女の子。ヤイコって呼んで」
「それは無理があんだろっ。ほら行くぞ。お嬢、またあとで」
「う、うん……」
やーだーと言いながら矢絃は奏矢に首根っこを掴まれ暖簾の奥へ消えていく。
「にしても……ヤイコって」
少し笑いそうになる気持ちをおさえ、私も暖簾をくぐった。



