「か、花粉症かな?」
頬の涙は、亮が優しく指で拭ってくれた。
「葉子は初歩的なミスをしたな?」
「え、どんな?」
「結婚願望が無いなら、なんで見合いしたんだよ」
「そ、それは、親の顔を立てて、仕方なくよ」
「それは嘘じゃないかもだが、結婚を前提に付き合ってるって言ってただろ? 結婚してもいいと思ったんじゃないのか? あのマザコン野郎と」
「う、確かに……」
「それと、中級的なミスもした。俺は、愛人が嫌いだ」
あちゃー。それは中級じゃない、上級だよ。
「葉子は俺が、”妾の子”って言われて虐められたのを忘れたのか?」
あ、そうだった。
「おふくろは、おやじさん、つまり吉田コンツェルン会長の吉田泰造の愛人だった。そのために、おふくろは最期まで惨めな思いをしてたし、俺は悪ガキに虐められ、今だって陰じゃバカにされている。征一さんを除いてだけど。
おふくろやおやじさんには、それなりの事情があった事を今は理解してるし、恨んでもいないが、愛人を持つ事には嫌悪があるんだ。葉子や俺達の子どもに、惨めな思いをさせるなんて絶対にだめだ。だから、愛人になるなんて、二度と言わないでほしい」
「はい。ごめんなさい」
私ったら、何やってるんだろう。バカみたい。これで亮との仲は終わりだな、と思ったのだけど……



