【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜


 だが、セドリックにとって『どうでもいい存在』だったシオンが、アレクシスの一言によって一瞬のうちに『敵』となった。

 セドリックはアレクシスを慕うあまり、シオンがアレクシスの『小姓』になることを、どうしても受け入れられなかったのだ。

 だからセドリックは、自らの過去を語ってシオンを脅し、思考を捻じ曲げようとした。
 そうまでして、シオンを遠ざけようとしたのである。

(自分のしたことに後悔はない。が、彼には申し訳ないことをした)

 本来なら、アレクシスの決定にセドリックが口を挟むことは許されない。
 身勝手な私情でシオンを煽り、本来シオンが選んだであろう道を選ばせないようにするなど、もってのほかだ。

 だがそうとわかっていても、そうせざるを得なかった。

 つまり、今回のことに限って言えば、シオンは被害者なのである。

 ――となれば、せめて宿の手配くらいはしてあげなければ。
 あるいは今夜一晩くらいならば、自分の部屋に泊めることもやぶさかではない。

 そんなことを考えながら眼下を見下ろすと、どうやらアレクシスの方も上手いこと話がまとまったようだ。
 アレクシスはエリスを腕に抱え、速足でこの棟の入口に向かってくるところだった。

 これからお楽しみの時間ということだろう。

 
 セドリックはそんな二人をじっと見下ろし、物憂げに瞼を伏せる。

 どうかこの穏やかな日々が一日も長く――願わくば、一生涯続くようにと祈りを捧げながら。

「さて……邪魔者は一刻も早く退散せねば」

 ――と薄く微笑んで、セドリックは部屋を後にしたのだった。