【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜


「……僕は……」

 認めたくなかった。自分の心の弱さを、どうしても認めたくなかった。

 大切な人の幸せを願うこともできず、かといって、欲望に忠実に生きることもできない中途半端な自分。
 エリスのためには宮を出ていくべきだとわかっているのに、決断できない自分が心底情けない。

 ――だが不意に、そんなシオンの中にとある疑問が沸いてくる。

 それがどうしても気になったシオンは、おずおずと口を開いた。

「あの……セドリック殿、一つ、お尋ねしてもいいですか?」
「? ええ、どうぞ?」

 セドリックは一瞬驚いた顔をしたが、答える姿勢を見せてくれる。
 シオンはそんなセドリックに、『この人は、根っこのところでは善人なのだな』と思いつつ、問いかけた。

「どうしてセドリック殿は、ここにお住まいではないのですか? 先ほどの話からすると、あなたは爵位をお持ちでない。つまり、比較的自由の効く身のはず。それでいて殿下の側近ならば、小姓と同じく、この宮に住まうこともできるのでは? それなのに、どうしてそうなさらないのですか?」
「――!」
「教えてください、セドリック殿。僕なら、大切な人の側には少しでも長くいたいと考える。でもあなたはそうしない。それは、いったいどうしてなのです?」

 すると、セドリックは何かを考えるように目を細める。

「……そうですね。理由は色々とありますが……」

 そして、もの悲し気に微笑むと、静かな声でこう言った。

「殿下はあれから十年以上が経った今も、私に負い目を感じていらっしゃる。そんな私が昼も夜も共にいたら、殿下の心が休まらないでしょう? まあ、それは恐らく、エリス様も同じだと思いますが」――と。