【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜


 突然の謝罪に、アレクシスは狼狽(うろた)える。
 エリスがそんなことを考えていたとは思いもしなかったからだ。

 それに、どうやらエリスには、自分がシオンに甘いという自覚があった様子である。
 てっきり無自覚なのかと思っていたアレクシスは、何よりもそのことに衝撃を受けた。

(エリスは、思っていたよりもずっと冷静にシオンのことを考えていたんだな)

 ――だがしかし、自分はもう既に、「小姓になるか、今夜中に出て行くか、シオンに選ばせろ」とセドリックに命じてしまった。

 その言葉を今さら(くつがえ)すというのは自分のポリシーに反するし、それに何より、アレクシスがシオンを小姓にすると言い出したのは、別にシオンがエリスの身内だったからというだけではない。

「エリス。君の考えは理解した。だが、俺の意見も聞いてくれるか?」

 アレクシスは、エリスと組んでいた腕をそっと放し、正面から向かい合う。
 するとエリスはこくりと頷いた。

 ――アレクシスは、冷静な声で告げる。

「確かに君の言うとおり、俺は甘いのかもしれない。実際、今の俺はシオンに同情している。侍女から『シオンが泣いた』と聞かされ、俺自身、十二のときに帝国を離れていたときのことを思い出したからだ。そのとき俺にはセドリックがいたが……六つという幼さで独り家を追い出されたシオンは、俺よりもずっと孤独だっただろう」
「……殿下」
「だからもう少しくらい、君と過ごす時間を与えてやってもいいと思った。とは言え、いつまでも客人として置いておくことはできないし、妃の弟を、使用人として雇うわけにはいかないからな。だからこその『小姓』だったが、実際に俺の世話をさせるつもりはないし、そもそも昼間は学院があるだろう。だから、あいつはあいつで好きに過ごしてくれればいいと思っている。――まぁ、あいつが小姓になることを望めば、だがな」
「――!」

 刹那、エリスはハッと息を呑む。
 アレクシスの語ったシオンの扱いが、想像よりもずっと優しかったからだ。