【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜

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 それは夏の暑い日の、日暮れ頃。

 王都の端に位置する教会の孤児院――その中の病人用の隔離された小部屋の硬いベッドの上で、セドリックは今日も伏せっていた。

 夏風邪を拗らせてしまっていたからだ。

 最初は少し熱っぽいくらいのものだったのだが、アレクシスに心配をかけまいと我慢していたら、三日前にとうとう倒れてしまい、治る気配を見せないまま今日(こんにち)に至る。


リック(・・・)、薬の時間だ」

 セドリックが休んでいると、頭上から不意に声がした。
 瞼を開けると、そこにはベッド脇の丸椅子に腰かけて、自分を心配そうに見下ろすアレクシスの姿がある。

「……殿下」

 セドリックが呟くと、アレクシスは小さく眉を寄せた。

「お前、いつまで俺をそう呼ぶつもりだ? ここでの俺は『殿下』じゃない。『アレックス』だ」
「……ああ、そうでした。つい……」
「まぁ、俺も咄嗟の時は『セドリック』と呼んでしまうけどな。――それで、リック。気分はどうだ? 起き上がれるか?」
「はい、大丈夫です」

 アレクシスに問われ、セドリックは笑みを取り繕う。
 実際は最悪な気分だったが、アレクシスにこれ以上心配をかけるわけにはいかなかった。

 身体を起こしたセドリックがベッド脇の四角いテーブルに目をやると、粉薬と水の入ったコップが用意されている。

「ちゃんと全部呑み干すんだぞ」
「わかってますよ。子供じゃないんですから」