(俺は絶対に許さない。エリスを貶めた奴の正体を突き止め、必ず制裁を下す……!)


 部屋の外では、後から追いついてきたマリアンヌや使用人らが、真っ青な顔で立ち尽くしている。

 皆、突然エリスの部屋を荒らし始めたアレクシスのことを、乱心したとでも思っているのだろう。

 見かねたマリアンヌが、「お兄様、おやめになって……!」と止めに入るが、アレクシスは妹の腕を乱暴に振り払い、引き出しの中身を一心不乱に漁り続けた。


 だが、チェスト上段の引き出しを開けたときだ。
 見覚えのある一枚の絵ハガキが、アレクシスの動きを止めた。

「――!」

(……これは)

 そう。それは紛れもなく、アレクシスがエリスに宛てた絵ハガキだった。

 演習先のロレーヌから送った、夕暮れどきの海を背景にした、美しい港町。
 そこには、短いメッセージが書き込まれている。


『この景色を、君に贈る』


 たったそれだけ。

 それだけのメッセージだったが、アレクシスはその一文を書いたときの気持ちを思い出し、ほんの束の間、意識を現実に引き戻した。

 だが、それはあまりにも一瞬だった。

 なぜなら、アレクシスは見つけてしまったのだから。

 引き出しの奥に隠されたように仕舞われた、一通の白い封筒。
 そこに押された封蝋の形が、見覚えのある紋章であることに――。


「……っ」


 刹那、ドクン、と、心臓が鼓動を強める。

 まさか、と全身の血が騒ぎ、アレクシスの身体から、容赦なく体温を奪っていった。


(この、家紋、は――)


 ああ、見間違えるはずがない。
 何度も不毛なやり取りをした、その相手を。
 

 アレクシスは、ざわめく心を必死に抑えつけ、真っ白になりかけた頭で、封筒をそっと手に取る。

 そうして中を覗けば、そこには見覚えのある几帳面な文字が並び――その最後には……。
 

「……リアム、……ルクレール」


 ――と、自分が突き放してしまった友人の名が、しっかりと刻まれていた。