シオンがそんなことを考えていると、ジークフリートが「ところで」と口を開く。
「ここは代わるから、食事をしておいで。ルームサービスが届いてる。僕はオリビア嬢と済ませたから、気にせず少し休むといい」
「……でも」
とても有難い申し出だが、今はエリスの側を離れたくない。
――そんな思いが透けて見えるシオンの肩を、ジークフリートは優しく叩く。
「心配いらない。エリス妃が目覚めたら、すぐに知らせるよ」
「…………」
「それに今の君、とても怖い顔をしているよ。まるで初めて会ったときの君みたいで、むしろ僕は興奮するけど……エリス妃はきっと、そんな君を見たら驚くんじゃないかな」
「……!」
ジークフリートの言葉に、シオンは全てを見透かされたような気がして、ぐっと口を噤んだ。
(確かに殿下の言うとおりだ。少し、頭を冷やした方がいいかもしれない)
シオンは躊躇いつつも、小さく頷く。
「わかりました。では、お言葉に甘えて……」
「ゆっくりしておいで。夜はまだ長い。考える時間は、たっぷりあるよ」
「……ありがとうございます、殿下。では、姉さんをよろしくお願いします」
シオンはジークフリートに礼を言い、静かに部屋を後にした。
一方、ジークフリートはその背中が扉の向こうに消えるのを最後まで見送ってから、未だ目覚めぬエリスの寝顔を、じっと見下ろす。
「……さて、と。本当はこういうやり方は好きじゃないんだけど、アレクシスの手前、傍観もできないし。ここはひとつ、エリス妃に頑張ってもらおうかな」
――と小さく微笑んで、エリスの肩をそっと揺り動かす。
「お目覚めの時間だよ、眠り姫。僕と少し、お話ししようか」



