なりきるキミと乗っ取られたあたし

 リビングと同様、キリコの部屋もシンプルだった。
 机には勉強に必要なものしか置いてないし、本棚にはもう読むこともなくなったような児童書しかない。
 まぁ、本はスマホがあれば事足りるからそんなものか。

 クローゼットを開けると服はそれなりにもっていた。
 友達もなく、着ていく機会もなさそうだけど。
 どれを着たってキリコのダサさは隠せそうになかった。

 つまらない部屋だ。
 動画を見ようにも、うちのWi-Fiにつながなきゃまともに見られない。
 雨だから出かけるのはイヤだけど、こんなところにこもっていてもなにも進展がなさそうだ。

 今からそっちに行きたいとキリコに連絡を取ると、お母さんはずっと家にいるらしいと返ってきた。
 早退したあたしが音無家を訪ねるのもへんだし、お母さんが監督しているなら、キリコを呼び出すのも無理だろう。

 ひとまず、おなかが減った。
 ――適当にデリバリー頼んでおいてっていわれたんだけど?
 メッセージを送ったが返事がない。

 こんなことはしたくないけど、持ちかえってきたキリコのバッグを探った。
 引き出しも開けてみたが財布がない。ついでにいえば通帳も。
 現金も何もかも全部スマホの中だろうか。

 ――ねぇ、あたし、無一文なんだけど
 既読さえつかない。
 ――戻れる方法考えよ?
 まったくの無反応。これじゃキリコがなにしてんのかわかりゃしない。

「なんなのよ、もう!」
 罠にはめられたんじゃないかって気がしてくる。
 早く元に戻りたい。
 どうすれば……。
 またあのときくらいの衝撃を受けたら、音無花音に戻れるだろうか?

 ……ぐぅとおなかが鳴った。
 とりあえずは腹ごしらえだ。
 キリコママが車で出ていくのを見届けて、冷蔵庫をあさった。