校舎の方へ戻ってくると生徒の姿もまばらだった。
用のない者は帰っているし、部活がある者はそれぞれの場所に集まっている。
あたしが放課後を過ごすのは双葉と友梨奈しかいない。
夕凪とつるんでばかりもいられないのだ。
これからどうやって日常を取り戻そうか。
キリコにうまく出し抜かれて歯がゆい思いだ。
草加さんから話を聞いて何が起こったかは把握した。
でも、どんなことが真実であっても、双葉と友梨奈にそれを説明したところで、ちょっとズレれば元に戻るのはたやすいことではない。
居心地の悪さが拭えないなら、ムリして戻るのはしんどい。
だけど、そこに戻るしかないんだ。
今さらほかのグループにすり寄ったりするのもイヤだ。
そうなったら双葉と友梨奈の悪口でいいわけをして、グループを離れた理由をいわなくちゃならないし、無駄な対立を生むことになってしまう。
あたしだってそんなことはしたくない。
疲れてしまうもの……
「音無さん? 大丈夫?」
夕凪は消沈しているあたしを気遣って声をかける。
「うん……」
「キリちゃんがあんなこといわれてたとはね。先輩と音無さんと、板挟みってやつ?」
あたしはぶるんぶるんと首を振った。
「いや、ぜんぜん違うから。キリコが勝手にあたしを巻き込んだんだよ。ちゃんと話してくれたら、しっかり振られたんでご心配なくって、いってあげたのに」
夕凪は小首をかしげてしんみりといった。
「うーん、キリちゃん、本当に九重先輩のことが好きなのかも」
「まさか」
あまりに高嶺の花すぎて、好きという感情より先にあきらめそうだ。
けど、夕凪は全然そんなことは思ってないみたい。
「好きな人のことはさ、そんな、軽々しくいえないじゃん。だれかに丸投げなんて絶対イヤ。自分でなんとかしたいもん」
「そうだけど……」
それは本当にそう。
夕凪が陽向くんのことをよく知ってるからといって、夕凪に任せて陽向くんに近づけても意味がない。
中身はあたしじゃないんだから。
そんなことでは陽向くんが自分の方を向いてくれていると実感できないから――
「あ……」
陽向くんだ。体操着姿の陽向くんがバッグを背負ってこっちへ向かって走ってきている。
夕凪もそれに気づいたようでそわそわしている。
「どうしよう、まだいってないんだよね?」
「うろたえるな、まだいってない」
そういってはみたものの、こちらもドキドキしていた。
陽向くんなら、入れ替わりを信じてくれるはずだ。
思い切って陽向くんに手を振ってみる。
「ちょっといい?」
これから部活なのだろうが、陽向くんは足を止めてくれた。それも、気まずそうに。
「……ああ、また出会っちゃった。オレ、邪魔じゃない?」
「違うの! あたしたち、入れ替わってしまったの!」
夕凪の姿のまま、思いっきり音無花音って感じのしゃべり方をして訴えた。
陽向くんは夕凪の口調に引っかかりを持ってくれたようだ。
「ん? ……ええっ! 入れ替わったって……ふたりが?」
陽向くんは唖然とあたしたちの顔を見比べている。一度だけでも信じられないのに、またしても入れ替わるなんて。
「本当に?」
陽向くんは改めて問いただした。夕凪がこくりとうなずく。
付き合っていることを隠すためのへたなウソみたいだけど、ほんとのほんとの本当だよ!
キリコのときみたいに中身が違うって気づいてほしい。
お願い、嘘だなんて言わないで。
夕凪も若干焦っているみたいだった。早口に伝えようとする。
「きのう、音無さんが車にひかれそうになって――」
「えっ、ちょっと待って、車に? なに? ええ?」
用のない者は帰っているし、部活がある者はそれぞれの場所に集まっている。
あたしが放課後を過ごすのは双葉と友梨奈しかいない。
夕凪とつるんでばかりもいられないのだ。
これからどうやって日常を取り戻そうか。
キリコにうまく出し抜かれて歯がゆい思いだ。
草加さんから話を聞いて何が起こったかは把握した。
でも、どんなことが真実であっても、双葉と友梨奈にそれを説明したところで、ちょっとズレれば元に戻るのはたやすいことではない。
居心地の悪さが拭えないなら、ムリして戻るのはしんどい。
だけど、そこに戻るしかないんだ。
今さらほかのグループにすり寄ったりするのもイヤだ。
そうなったら双葉と友梨奈の悪口でいいわけをして、グループを離れた理由をいわなくちゃならないし、無駄な対立を生むことになってしまう。
あたしだってそんなことはしたくない。
疲れてしまうもの……
「音無さん? 大丈夫?」
夕凪は消沈しているあたしを気遣って声をかける。
「うん……」
「キリちゃんがあんなこといわれてたとはね。先輩と音無さんと、板挟みってやつ?」
あたしはぶるんぶるんと首を振った。
「いや、ぜんぜん違うから。キリコが勝手にあたしを巻き込んだんだよ。ちゃんと話してくれたら、しっかり振られたんでご心配なくって、いってあげたのに」
夕凪は小首をかしげてしんみりといった。
「うーん、キリちゃん、本当に九重先輩のことが好きなのかも」
「まさか」
あまりに高嶺の花すぎて、好きという感情より先にあきらめそうだ。
けど、夕凪は全然そんなことは思ってないみたい。
「好きな人のことはさ、そんな、軽々しくいえないじゃん。だれかに丸投げなんて絶対イヤ。自分でなんとかしたいもん」
「そうだけど……」
それは本当にそう。
夕凪が陽向くんのことをよく知ってるからといって、夕凪に任せて陽向くんに近づけても意味がない。
中身はあたしじゃないんだから。
そんなことでは陽向くんが自分の方を向いてくれていると実感できないから――
「あ……」
陽向くんだ。体操着姿の陽向くんがバッグを背負ってこっちへ向かって走ってきている。
夕凪もそれに気づいたようでそわそわしている。
「どうしよう、まだいってないんだよね?」
「うろたえるな、まだいってない」
そういってはみたものの、こちらもドキドキしていた。
陽向くんなら、入れ替わりを信じてくれるはずだ。
思い切って陽向くんに手を振ってみる。
「ちょっといい?」
これから部活なのだろうが、陽向くんは足を止めてくれた。それも、気まずそうに。
「……ああ、また出会っちゃった。オレ、邪魔じゃない?」
「違うの! あたしたち、入れ替わってしまったの!」
夕凪の姿のまま、思いっきり音無花音って感じのしゃべり方をして訴えた。
陽向くんは夕凪の口調に引っかかりを持ってくれたようだ。
「ん? ……ええっ! 入れ替わったって……ふたりが?」
陽向くんは唖然とあたしたちの顔を見比べている。一度だけでも信じられないのに、またしても入れ替わるなんて。
「本当に?」
陽向くんは改めて問いただした。夕凪がこくりとうなずく。
付き合っていることを隠すためのへたなウソみたいだけど、ほんとのほんとの本当だよ!
キリコのときみたいに中身が違うって気づいてほしい。
お願い、嘘だなんて言わないで。
夕凪も若干焦っているみたいだった。早口に伝えようとする。
「きのう、音無さんが車にひかれそうになって――」
「えっ、ちょっと待って、車に? なに? ええ?」



