なりきるキミと乗っ取られたあたし

 階段を上りきると双葉と友梨奈、そして――あたしと鉢合わせをした。
 猫背気味であごを引き、自信なさそうな上目遣いにイライラしてくるが、あたしとうり二つの女子が目の前にいる。

「キリコ、マジでふざけんな」
 出会い頭、双葉はあたしに向かってののしった。
「キリコって――それ、本気で言ってるの?」
 あたしはしゃべってみて自分の声に驚いた。この声、あたしの声じゃない。

 友梨奈があたしの肩を突き飛ばす。
「は? なにわけわかんないこといってんの。あんたが引きずり落としたせいで、花音が気分悪いっていってんだよ」
「花音って、その花音?」
 あたしは目の前いるあたしそっくりな女子を指さした。
 相手はビクッとおびえたように身を縮めるだけで、自分が花音と呼ばれていることを否定もしない。

 友梨奈はあたしの手をはたき落とした。
「ほかにどの花音がいるっていうのよ。いい加減にしな」

 目の前にいるのが音無花音なら、あたしは、もしかして、霧島桐子になっちゃったの?
 うそだよ、そんなこと、あるわけない。
 イヤだよ。ぜったいにイヤ。

 あたしは階段近くにあるトイレへと駆け込んだ。
 手洗い場の前に立って、自分の姿を鏡に映し出す。
 鏡に映っていたのは――キリコだった。

 頬に手をやると、鏡の中の自分も同じ動作をする。
 重たい二重まぶたが思いっきり見開いた。
 なんなの、この顔!

「いやぁぁぁー!」

 絶叫すると、祐子先生が駆けつけた。
 鏡の中で目が合い、錯乱しているあたしの様子を見て祐子先生も目を丸めて驚いているのがわかった。
 違う。あたし、キリコじゃないの。
 首を振って伝えようとするも、うまく言えない。

 先生は腰が抜けそうになってるあたしを支え、「どうしたの、霧島さん?」と、あたしに向かってその名を呼んだ。