夕凪をいつもの美容院に連れて行った。
「担当してくれるのはナミキさんね。スタイリングの話とか、わかんないことあると思うけど、適当に聞いておいて」
「大丈夫だって」
あたしの話もそこそこに夕凪はそそくさと中へ入っていた。
こういうところへ来たことがないのか、興味深そうにキョロキョロしている。
うまくやれているのか心配というのもあるけど、そのまま帰られても困るので外をウロウロしながら見張っておく。
待つのは長かった。
なんどもスマホで時間を確認する。ずいぶん時間が経ってもなかなか夕凪は姿を現さない。
いつもならもう終わっている時間なんだけどな。
やきもきしていたら、出入り口付近で支払いをしている夕凪が見えた。
ナミキさんと笑顔で会話を交わしている。どうやらうまく打ち解けられたようだ。
ナミキさんに見送られ、手を振ってドアから出てくる夕凪がふとこちらを見た。
え?
なにか違う?
いや、あたし、すごくかわいくない?
ちょっと待って。こんな本音、声に出して言えないけど、ストレートパーマかけて毛先切っただけだよね?
夕凪は駆け寄ってきて、ぴょんっとあたしの目の前に立ち止まった。
「どう?」
すっごく楽しそうにあたしを見つめる。
「まさか……」
あたしは音無花音の顔をよく見る。
「まさか、メイクしてるの?」
「ふふふ。そうだよ。やってみたかったんだ」
してるかしてないかぐらいのナチュラルメイクだが、全然違う。目元が色っぽくて唇も発色良くてつやっぽい。
ママの化粧品を借りて見よう見まねでやってみたことがあるが、こんなふうになったことがない。
元々ママはメイクがヘタだし、あたしも不器用で動画を見ながらやってみても全然うまくいかないのだ。
「安心して。かさんだ代金はちゃんと自分で支払ったからね」
「いやいやいや。そうじゃなくて。なんで?」
「そっか。やっぱり理由だよね……」
夕凪はちょっと寂しそうに目を伏せた。
「音無さんってメイクしたことある?」
「ま、まぁ……一度や二度は……」
「メイクするのに理由なんて考えたことある?」
「え? 理由? それは……かわいくなりたい、とか?」
「わたしと音無さんは自然と同じところに行き着いたんだと思うよ」
夕凪の言っていることがよくわからなかった。
男子もメイクをしたいって本心では思っているけど、普通はやらないから我慢してるってこと?
ぽかんとしているあたしに、なんと説明したらいいのかためらっているようだったが、夕凪は思い切ったように口を開いた。
「クローゼットの中は見た?」
「夕凪の? 着替えるために引き出しの中は見ちゃったけど……」
「奥の方にメイク道具がしまってあるんだ」
「なんで?」
「だから、メイクがしたいって思ったから」
「そういう職に就きたいってこと? だからナミキさんにアドバイスもらったとか?」
「それもひとつにはあるけど、そうじゃないよ。うまく説明できないんだけど。でもまだ自分の顔にメイクするのは勇気なくて全然使ってないんだ」
あたしは女の子だから、やっぱりよくわからなかった。
メイクをするのに緊張はしたけど、ワクワクするような感じ。勇気を出してメイクをしようという気持ちではなかったから、あたしと夕凪が同じところに行き着いたというのがよくわからなかった。
黙っているあたしを見て夕凪がどう感じたかわからない。でも夕凪は「わからなくていいの」と言った。
「わかってほしいとかじゃないんだ。ごめんね勝手なことして。でもすごく楽しかった」
そうだった。
夕凪がドアを開けて出てきたときはすごくうれしそうにしていた。
「ワクワクした?」
「うん」
「それはあたしも同じ」
あたしたちは自然と笑みがこぼれて、そこだけは少しわかりあえたのかもしれなかった。
だけどまだ夕凪には重大な仕事が残されている。
「担当してくれるのはナミキさんね。スタイリングの話とか、わかんないことあると思うけど、適当に聞いておいて」
「大丈夫だって」
あたしの話もそこそこに夕凪はそそくさと中へ入っていた。
こういうところへ来たことがないのか、興味深そうにキョロキョロしている。
うまくやれているのか心配というのもあるけど、そのまま帰られても困るので外をウロウロしながら見張っておく。
待つのは長かった。
なんどもスマホで時間を確認する。ずいぶん時間が経ってもなかなか夕凪は姿を現さない。
いつもならもう終わっている時間なんだけどな。
やきもきしていたら、出入り口付近で支払いをしている夕凪が見えた。
ナミキさんと笑顔で会話を交わしている。どうやらうまく打ち解けられたようだ。
ナミキさんに見送られ、手を振ってドアから出てくる夕凪がふとこちらを見た。
え?
なにか違う?
いや、あたし、すごくかわいくない?
ちょっと待って。こんな本音、声に出して言えないけど、ストレートパーマかけて毛先切っただけだよね?
夕凪は駆け寄ってきて、ぴょんっとあたしの目の前に立ち止まった。
「どう?」
すっごく楽しそうにあたしを見つめる。
「まさか……」
あたしは音無花音の顔をよく見る。
「まさか、メイクしてるの?」
「ふふふ。そうだよ。やってみたかったんだ」
してるかしてないかぐらいのナチュラルメイクだが、全然違う。目元が色っぽくて唇も発色良くてつやっぽい。
ママの化粧品を借りて見よう見まねでやってみたことがあるが、こんなふうになったことがない。
元々ママはメイクがヘタだし、あたしも不器用で動画を見ながらやってみても全然うまくいかないのだ。
「安心して。かさんだ代金はちゃんと自分で支払ったからね」
「いやいやいや。そうじゃなくて。なんで?」
「そっか。やっぱり理由だよね……」
夕凪はちょっと寂しそうに目を伏せた。
「音無さんってメイクしたことある?」
「ま、まぁ……一度や二度は……」
「メイクするのに理由なんて考えたことある?」
「え? 理由? それは……かわいくなりたい、とか?」
「わたしと音無さんは自然と同じところに行き着いたんだと思うよ」
夕凪の言っていることがよくわからなかった。
男子もメイクをしたいって本心では思っているけど、普通はやらないから我慢してるってこと?
ぽかんとしているあたしに、なんと説明したらいいのかためらっているようだったが、夕凪は思い切ったように口を開いた。
「クローゼットの中は見た?」
「夕凪の? 着替えるために引き出しの中は見ちゃったけど……」
「奥の方にメイク道具がしまってあるんだ」
「なんで?」
「だから、メイクがしたいって思ったから」
「そういう職に就きたいってこと? だからナミキさんにアドバイスもらったとか?」
「それもひとつにはあるけど、そうじゃないよ。うまく説明できないんだけど。でもまだ自分の顔にメイクするのは勇気なくて全然使ってないんだ」
あたしは女の子だから、やっぱりよくわからなかった。
メイクをするのに緊張はしたけど、ワクワクするような感じ。勇気を出してメイクをしようという気持ちではなかったから、あたしと夕凪が同じところに行き着いたというのがよくわからなかった。
黙っているあたしを見て夕凪がどう感じたかわからない。でも夕凪は「わからなくていいの」と言った。
「わかってほしいとかじゃないんだ。ごめんね勝手なことして。でもすごく楽しかった」
そうだった。
夕凪がドアを開けて出てきたときはすごくうれしそうにしていた。
「ワクワクした?」
「うん」
「それはあたしも同じ」
あたしたちは自然と笑みがこぼれて、そこだけは少しわかりあえたのかもしれなかった。
だけどまだ夕凪には重大な仕事が残されている。



