なりきるキミと乗っ取られたあたし

 放課後、夕凪は双葉と友梨奈に「ちょっと用事あるから先帰ってて」と声をかけた。
「あっそ」
「ふーん」

 ふたりの返事はあっさりしたものだった。
 あたしのことはもう関心がないとばかりに、なんの用事か聞き出すこともなく、これみよがしにキリコを引き連れて帰ってしまった。

 まずい。状況はかなり悪化している。
 先に弁明するべきだったか?
 ひょっとして、もう遅い?

「音無さん、これでよかったんだよね」
 夕凪にまで心配され、あたしは胸を張るしかなかった。
「ぜんぜん。平気。それでいい」
 おたおたしているなんて、あたしらしくもない。
 真相を明らかにすればまた元通りになるはず。
 キリコが全部悪いんだから。

 とにかく、キリコを取り囲んだあの4人の先輩を見つけ出さないと。
 とはいっても、覚えているのは陸上部の先輩だけだった。
 その他3人は、顔を見れば、ああ、この人だったと思い出せるかもしれないが、名前もクラスもわからず、たどり着けそうにない。

 とりあえず陸上部だ。
「部活をしているところに乗り込んだら、しらを切り通せないはず。絶対白状させてみせる!って、それはあたしじゃなくて、夕凪の役割だった」
 意気込みを夕凪に向ける。

 夕凪には先輩にからまれたことからはじまって、だいたいのことは話してある。
 あとは音無花音の姿を見た先輩の反応次第だ。

「先輩相手だけど、音無花音になりきってね」
「えー。そんな自信ないよ」
 尻込みする夕凪の手首をつかんだ。
「行くよ」
 ぶるぶるっと頭を横に振って抵抗する夕凪。
 頭と一緒に髪の毛がぼわぼわっと揺れ、あたしはそれを見て大事なことを思い出した。

「ああ、どうしよう。今日こそは美容院に行かなきゃいけなかったんだ」
「美容院?」
「入れ替わりのゴタゴタで行きそびれて。二回もキャンセルできない」
「だったら行こうよ! わたし、ジッとしていられるから、任せて」
「子供じゃないんだからジッとすることぐらいできるでしょう」
「行こう行こう」

 逆に夕凪に引っ張られた。
 女子のトラブルに巻き込まれるより髪をいじられる方がましってことか。
 みょうにはしゃぎ出す夕凪に、まぁ今じゃなくてもいいかとあきらめた。
「しょうがない。終わったら学校に戻ってね。部活ならまだやってるだろうから」
 聞いているのかいないのか、夕凪はあたしの手を離れてスキップで校門へ向かった。