翌朝はもっとひどかった。
眠い目をこすりながら階下へ行くと、夕凪の席には何も用意されていなかった。
ひとまず座ると、また母親が不審そうにこちらを見た。
「なにか用なの?」
「いや……別に」
朝食はいつも食べてないってことなのか。
すると、朝はここへ来ることもないのかもしれない。
またまたあたしは退散した。
夕凪の生活はあたしの常識とはかけ離れていて、この家にいるとボロが出てくる。
それどころか嫌気がさして憂鬱になるというか。
だいぶ早いが家を出ることにした。
夕凪がやせてるのって、ごはんを食べさせてもらえないからなんだろうか。
イヤなこと知っちゃったな。
学校で起こってるいじめとか、スルーしちゃってることもあるけど、家の中で起こってることを目の当たりにするのは、とんでもない十字架を背負わされている気持ちになる。
「はぁ……」
もう、イヤだよ、入れ替わりなんて。
ひょっとして夕凪が自分の体に戻りたくないのは、この家に戻りたくないってことなのかな。
突然泣いたりしてわけわからなかったし。
この家で夕凪がどんなふうに過ごしているのか聞き出すのは気が重かった。
家族とどんなやりとりをすればいいのだろう。
ぐだぐだと歩いていると、コンビニにさしかかった。自然と足が止まる。
(……夕凪。ごめん。お金借りる)
あたしは空腹に耐えられなくなって、焼きそばパンとメロンパン、アーモンドミルクを買った。
ちょっと行儀が悪いが、店を出るなり開封し、焼きそばパンに食らいついた。
炭水化物に炭水化物という聞いただけでも悪魔の所業かってほどひどい組み合わせなのに、一口目からもう幸せだ。濃いめのソースがからんだもっちり麺が、ふんわり食感のパンに包まれて……。
「ちょっと! なにしてんのよ!」
叫び声と共に猛ダッシュで目の前に現れたのは、あたし――中身が夕凪の音無花音だった。
きちんと制服を着こなし、風になびく髪はさらさらと可憐に朝日を浴び、完璧な身繕いで申し分ないが、鬼の形相であたしに詰め寄る。
「怖いよ。どうしたの?」
「どうしたのじゃないよ。気になって家に立ち寄ってみたら、もう登校したみたいっていわれるし、なんで朝から買い食いしてんの」
「なんでって、そりゃあ、おなかがすいたから」
あたしは正直に答える。
だけど夕凪は怒り肩で拳をぎゅっと握りしめると力強く断言した。
「そんなはずない!」
「だって……だって……」
母親がまともな食事をくれないって、そんなこと、面と向かって言いづらかった。
言いよどんでいたら、夕凪はなんでもないように軽い調子でいった。
「いつものことだから。朝、なにも食べないのは」
「どうしてよ。お母さんに言いづらいなら、あたし、言うよ。ちゃんとご飯食べたいって」
いつになくあたしは真剣な面持ちでいうが、夕凪はおかしそうに否定した。
「そうじゃないんだって。家族もあきれてるけど、自分で望んでそうしてるの」
「まさか、ダイエット? やめなよ、こんなにやせてるのに」
「関係ないでしょ。音無さんの要望だって聞き入れてるんだから、こっちもちゃんと聞いて」
それはそうだ。自分の生き様に中途半端に口を出されては、うっとうしくなるのもわかる。あたしだって音無花音としてふるまってほしいことはあるし――。
「そうだ! ちゃんと目をつむってくれてるでしょうね。こっちだっていつお風呂に入ったらいいのかもわからなくて、真夜中にこっそりと真っ暗闇でシャワー浴びたんだから」
「それはどうも。こちらも問題なくやってるから」
「ああ、もう! 戻りたい!」
「それができないから困ってるんでしょ」
眠い目をこすりながら階下へ行くと、夕凪の席には何も用意されていなかった。
ひとまず座ると、また母親が不審そうにこちらを見た。
「なにか用なの?」
「いや……別に」
朝食はいつも食べてないってことなのか。
すると、朝はここへ来ることもないのかもしれない。
またまたあたしは退散した。
夕凪の生活はあたしの常識とはかけ離れていて、この家にいるとボロが出てくる。
それどころか嫌気がさして憂鬱になるというか。
だいぶ早いが家を出ることにした。
夕凪がやせてるのって、ごはんを食べさせてもらえないからなんだろうか。
イヤなこと知っちゃったな。
学校で起こってるいじめとか、スルーしちゃってることもあるけど、家の中で起こってることを目の当たりにするのは、とんでもない十字架を背負わされている気持ちになる。
「はぁ……」
もう、イヤだよ、入れ替わりなんて。
ひょっとして夕凪が自分の体に戻りたくないのは、この家に戻りたくないってことなのかな。
突然泣いたりしてわけわからなかったし。
この家で夕凪がどんなふうに過ごしているのか聞き出すのは気が重かった。
家族とどんなやりとりをすればいいのだろう。
ぐだぐだと歩いていると、コンビニにさしかかった。自然と足が止まる。
(……夕凪。ごめん。お金借りる)
あたしは空腹に耐えられなくなって、焼きそばパンとメロンパン、アーモンドミルクを買った。
ちょっと行儀が悪いが、店を出るなり開封し、焼きそばパンに食らいついた。
炭水化物に炭水化物という聞いただけでも悪魔の所業かってほどひどい組み合わせなのに、一口目からもう幸せだ。濃いめのソースがからんだもっちり麺が、ふんわり食感のパンに包まれて……。
「ちょっと! なにしてんのよ!」
叫び声と共に猛ダッシュで目の前に現れたのは、あたし――中身が夕凪の音無花音だった。
きちんと制服を着こなし、風になびく髪はさらさらと可憐に朝日を浴び、完璧な身繕いで申し分ないが、鬼の形相であたしに詰め寄る。
「怖いよ。どうしたの?」
「どうしたのじゃないよ。気になって家に立ち寄ってみたら、もう登校したみたいっていわれるし、なんで朝から買い食いしてんの」
「なんでって、そりゃあ、おなかがすいたから」
あたしは正直に答える。
だけど夕凪は怒り肩で拳をぎゅっと握りしめると力強く断言した。
「そんなはずない!」
「だって……だって……」
母親がまともな食事をくれないって、そんなこと、面と向かって言いづらかった。
言いよどんでいたら、夕凪はなんでもないように軽い調子でいった。
「いつものことだから。朝、なにも食べないのは」
「どうしてよ。お母さんに言いづらいなら、あたし、言うよ。ちゃんとご飯食べたいって」
いつになくあたしは真剣な面持ちでいうが、夕凪はおかしそうに否定した。
「そうじゃないんだって。家族もあきれてるけど、自分で望んでそうしてるの」
「まさか、ダイエット? やめなよ、こんなにやせてるのに」
「関係ないでしょ。音無さんの要望だって聞き入れてるんだから、こっちもちゃんと聞いて」
それはそうだ。自分の生き様に中途半端に口を出されては、うっとうしくなるのもわかる。あたしだって音無花音としてふるまってほしいことはあるし――。
「そうだ! ちゃんと目をつむってくれてるでしょうね。こっちだっていつお風呂に入ったらいいのかもわからなくて、真夜中にこっそりと真っ暗闇でシャワー浴びたんだから」
「それはどうも。こちらも問題なくやってるから」
「ああ、もう! 戻りたい!」
「それができないから困ってるんでしょ」



