「じゃあね」
と手を振る3人に音無花音も手を振って、迷わず自宅のほうへと帰って行く。
そういえばあたし、夕凪風太の家を知らないじゃん。
でも、相手はあたしのうちを知っている。3人とも話しを合わせられているようだし、あたしのことを調べたのだろうか。
それとも、そこにいるのは中身まで本物の音無花音?
いや、そんなはずはない。あってはならない。中身の音無花音はここ、夕凪風太の中にいるのだから。
あたしは3人の姿が見えなくなったころ、思い切って呼んでみた。
「ナギ!」
すると、音無花音は振り返った。そして、あたし――つまり、夕凪風太の姿を認めると、明らかに「しまった!」という顔をした。
「やっぱり、夕凪じゃん! しれっとあたしのフリしてなんなのよ。あたしに対してまで入れ替わってませんみたいな態度取って」
「だって、みんな見てたじゃない。わたしたち、入れ替わっちゃったんで、よろしく、なんていえないでしょ。頭おかしいと思われるし」
「だからって、入れ替わりに驚きもしないって、なんなの。わざとなの? 入れ替わる方法を知ってたの? どうすんのよ、これから!」
「もう、そんなにまくし立てないでよ」
通りすがりの近所のおばさんがこちらをじろじろ見ていた。
男子生徒の姿をしたあたしを特に不審がっている。このまま強引に音無花音の手を引いて自宅に連れ込むわけにもいかない。
「ちょっと話しをさせて。音無さんちのおたくで」
声を潜めて付け加える。
「――急にこんなことになって、こっちは帰る家だってわかんないんだから」
「わかったよ」
渋々といった感じで、音無花音のなりをした夕凪は音無家に向かった。
「家に誰かいる?」
「いない。鍵はバッグ……ちょっと待った。バッグの中、勝手に見ないで。あたしがやる」
あたしはバッグを奪い取って玄関の鍵を開けた。
「もう、ほんと、男子と入れ替わりとかあり得ない」
こんなこと、すぐにでも終わらせたかった。
あたしは夕凪より先に階段を上って自分の部屋に入る。ざっと見たところ、とりあえず、見られたくないものはない。
「おじゃましまーす」
夕凪はあたしを押しのけて入ってきた。
「ふーん、音無さんの部屋って、こんな感じなんだ」
「なによそれ」
あたしだって不満だ。部屋をかわいくすることにまでお金はかけられないんだから、仕方ない。
小学校から使っている机は、サイズはまだあってるんだからいいでしょって、買い換えてくれないし、タンスもベッドも気に入らないからわざと壊してしまおうか考え中だったりする。
実際、絨毯ははソースがべっとりついたタコ焼きを転がして、かわいいラグに買い換えてもらった。
「どうでもいいけど、なんで入れ替わる方法を知ってるの」
「やっぱり、音無さん、2回目だった?」
思わず気を許してしまいそうな上目遣いに、いやいやいやと首を振る。あたし自身が音無花音の魔性に引っかかってどうすんだ。
「2回目だってこと、どうして」
「霧島さん、なんかおかしかったし」
「やっぱ、そこ気づくんだ」
目立っているほうのあたしじゃなくて、キリコの方に気づくなんて、軽くへこむ。
「そしたら、なぜだか通っていた幼稚園に行ったり、園長先生訪ねたり」
「つけてたの!?」
あたしの怒りにもお構いなしに夕凪は続けた。
「そしたら、仲良くもない音無さんちにやってくるし。そしたら霧島さん、普通に戻ってて、なぜか音無さんたちのグループ入り果たしてるし」
そういわれてみれば、キリコからしたら、してやったりな展開だ。一気にカースト上位なのだから。
「それで思い出してさ。園長先生の入れ替わりの術とか」
「え? それを知ってるってことは……」
「うん、卒業生」
「マジか……」
「そういえば、音無さんと霧島さん、ふたりしてケガして病院行ってたなとか、いろいろ考えるうち、偶然、こんなことになっちゃったんだよね。まさかって、信じられない思いだけど」
全部が繋がって、さして驚きもしなかったのか。
平常心過ぎてこちらは別の事態が発生したと勘違いしたというのに。
「助けてくれたのは、ほんと、感謝だよ。でも、もう充分でしょ。元に戻ろう」
「どうやって?」
「え? 知ってるんじゃないの?」
「音無さんこそ知ってるんでしょ? 園長先生に聞かなかったの?」
聞いたわけじゃない。なんとなくどうやるかはわかっている。
ただ、やっかいなのは戻りたいという気持ちがないといけない。
それを先に言ってしまえば、戻ることを先延ばしにしようとするかもしれない。
説明しないでやってしまったほうが早い。
と手を振る3人に音無花音も手を振って、迷わず自宅のほうへと帰って行く。
そういえばあたし、夕凪風太の家を知らないじゃん。
でも、相手はあたしのうちを知っている。3人とも話しを合わせられているようだし、あたしのことを調べたのだろうか。
それとも、そこにいるのは中身まで本物の音無花音?
いや、そんなはずはない。あってはならない。中身の音無花音はここ、夕凪風太の中にいるのだから。
あたしは3人の姿が見えなくなったころ、思い切って呼んでみた。
「ナギ!」
すると、音無花音は振り返った。そして、あたし――つまり、夕凪風太の姿を認めると、明らかに「しまった!」という顔をした。
「やっぱり、夕凪じゃん! しれっとあたしのフリしてなんなのよ。あたしに対してまで入れ替わってませんみたいな態度取って」
「だって、みんな見てたじゃない。わたしたち、入れ替わっちゃったんで、よろしく、なんていえないでしょ。頭おかしいと思われるし」
「だからって、入れ替わりに驚きもしないって、なんなの。わざとなの? 入れ替わる方法を知ってたの? どうすんのよ、これから!」
「もう、そんなにまくし立てないでよ」
通りすがりの近所のおばさんがこちらをじろじろ見ていた。
男子生徒の姿をしたあたしを特に不審がっている。このまま強引に音無花音の手を引いて自宅に連れ込むわけにもいかない。
「ちょっと話しをさせて。音無さんちのおたくで」
声を潜めて付け加える。
「――急にこんなことになって、こっちは帰る家だってわかんないんだから」
「わかったよ」
渋々といった感じで、音無花音のなりをした夕凪は音無家に向かった。
「家に誰かいる?」
「いない。鍵はバッグ……ちょっと待った。バッグの中、勝手に見ないで。あたしがやる」
あたしはバッグを奪い取って玄関の鍵を開けた。
「もう、ほんと、男子と入れ替わりとかあり得ない」
こんなこと、すぐにでも終わらせたかった。
あたしは夕凪より先に階段を上って自分の部屋に入る。ざっと見たところ、とりあえず、見られたくないものはない。
「おじゃましまーす」
夕凪はあたしを押しのけて入ってきた。
「ふーん、音無さんの部屋って、こんな感じなんだ」
「なによそれ」
あたしだって不満だ。部屋をかわいくすることにまでお金はかけられないんだから、仕方ない。
小学校から使っている机は、サイズはまだあってるんだからいいでしょって、買い換えてくれないし、タンスもベッドも気に入らないからわざと壊してしまおうか考え中だったりする。
実際、絨毯ははソースがべっとりついたタコ焼きを転がして、かわいいラグに買い換えてもらった。
「どうでもいいけど、なんで入れ替わる方法を知ってるの」
「やっぱり、音無さん、2回目だった?」
思わず気を許してしまいそうな上目遣いに、いやいやいやと首を振る。あたし自身が音無花音の魔性に引っかかってどうすんだ。
「2回目だってこと、どうして」
「霧島さん、なんかおかしかったし」
「やっぱ、そこ気づくんだ」
目立っているほうのあたしじゃなくて、キリコの方に気づくなんて、軽くへこむ。
「そしたら、なぜだか通っていた幼稚園に行ったり、園長先生訪ねたり」
「つけてたの!?」
あたしの怒りにもお構いなしに夕凪は続けた。
「そしたら、仲良くもない音無さんちにやってくるし。そしたら霧島さん、普通に戻ってて、なぜか音無さんたちのグループ入り果たしてるし」
そういわれてみれば、キリコからしたら、してやったりな展開だ。一気にカースト上位なのだから。
「それで思い出してさ。園長先生の入れ替わりの術とか」
「え? それを知ってるってことは……」
「うん、卒業生」
「マジか……」
「そういえば、音無さんと霧島さん、ふたりしてケガして病院行ってたなとか、いろいろ考えるうち、偶然、こんなことになっちゃったんだよね。まさかって、信じられない思いだけど」
全部が繋がって、さして驚きもしなかったのか。
平常心過ぎてこちらは別の事態が発生したと勘違いしたというのに。
「助けてくれたのは、ほんと、感謝だよ。でも、もう充分でしょ。元に戻ろう」
「どうやって?」
「え? 知ってるんじゃないの?」
「音無さんこそ知ってるんでしょ? 園長先生に聞かなかったの?」
聞いたわけじゃない。なんとなくどうやるかはわかっている。
ただ、やっかいなのは戻りたいという気持ちがないといけない。
それを先に言ってしまえば、戻ることを先延ばしにしようとするかもしれない。
説明しないでやってしまったほうが早い。



