なりきるキミと乗っ取られたあたし

 美容院の予約をすっぽかしていた。
 それ以外は万事順調。元に戻っていた。
 キリコと抱き合ったとき、元に戻ったと気づかないくらい自然で、まばたきした瞬間に、見ていた部屋の景色が変わったなというくらいあっさりしたものだった。

 ああ、でも、ちょっとした変化はあった。
 キリコがあたしたちのグループの仲間に入ったことだ。
 登校途中に、まずはあたしから双葉と友梨奈にキリコのことを話しておくことにした。キリコはグズで要領を得ないといけないから。

「キリコさ、先輩ににらまれていたらしいよ」
「うっそ。ほんとにグズだよね」
 双葉はあけすけにいう。

「音無花音が生意気だから引きずり落とせって。たぶん、それってカーストから引きずり落とせっていう意味だと思うけど、普通に階段から引きずり落とすとか、ありえなくない?」
「ちょーウケる。なんなのそれ」
 友梨奈と双葉は爆笑だ。こっちは激痛で湿布臭くなるほどのケガだったのに。

「でさぁ、キリコもヤバいけど、やられっぱなしもムカつくじゃん? キリコをこっちに取り込んでスパイさせようよ」
「ああ、ありだね」
「おもしろそう」
「パシらせよう」

 ふたりは盛り上がってこの話しに乗ってきた。
 休み時間、三人でキリコの机を取り囲んだ。
 キリコはほぼ動かない。いつだって自分の席で背中を丸めている。

「というわけで」
 あたしは有無を言わさずまくし立てた。キリコには先輩からなにか言われたときにはすぐに報告するように申し伝えた。
「あたしたち、キリコの味方だから」
 あたしは念押しして仲間に入れてやったことを強調した。キリコは可もなく不可もなくみたいなつまらない顔をしている。

 双葉が恫喝まがいににらみをきかせる。
「そうだよ。先輩は来年には卒業しちゃうんだよ。どっちについたほうがいいかわかってるよね?」
「キリコもうれしいでしょ。仲間に入れて」
 友梨奈はキリコの頭をぽんぽんと優しく触れると、髪の毛をぐしゃぐしゃにかき回した。
 まずはこんなかんじでかまわないよね?
 あたしだって、急には変われないんだから。