一日ぶりに自分の部屋に帰ってきた。
さっと見たかんじ、部屋の様子は変わってない。
ただ、見慣れぬスマホの充電器とタブレットがある。キリコが自分の家から持ち出したのか?
でも、あたしがそうだったように、音無花音の姿をしていたらキリコの家から勝手に持ち出せるはずがない。それとも、買ってきたのだろうか。
まぁ、いい。あたしは自分の充電器をバッグに入れ、引き出しを探った。
いつも持ち歩いている財布があった。
双葉たちも知ってる財布なので霧島桐子同じ物をが持っているわけにはいかない。中身を全部出して、机の奥にある古い財布に入れ替えた。
「それで満足?」
キリコはローテーブルの前に座り、クッションを抱えてジュースを飲んでいた。
「そっちはいいわよ。足らないものは自由に買い足せるんだから」
「こっちはこっちで大変だよ。音無花音でいるのって、けっこう面倒なのね」
「ふざけないで!」
気づいたらあたしはキリコにつかみかかっていた。だけど目の前にいるのがあたし自身で、複雑な気持ちになる。
「花音?」
階下からお母さんが呼びかけている声が聞こえた。思わず返事をしそうになって口をつぐむ。
「お友達、まだいるの?」
「もう帰るって!」
キリコはドアの方を向いてあたしの声色でそう告げた。すっかりあたしになりきっている。
今まであたしが歩んできた全人生をキリコが引き継いでいることが許せなかった。
あなたは音無花音になっているのだもの。なんの不自由もないでしょうよ。
でも、ここまで楽してやってきたわけじゃないんだから。
あたしはあなたとは違う。
あたしは戦うことから逃げ回ってきたキリコを引き継がなきゃいけない。
「ひとつ確認したいことがある」
あたしがつかみかかったままの体制で聞くと、キリコは「なぁに?」と甘ったるい声で返事した。イラッとする気持ちをどうにか抑え込む。
「きょう、帰りに先輩にからまれた。陸上部で表彰されたこともある先輩もいたグループ」
「ああ」
即座にうなずくキリコには覚えがあるようだった。
「頼まれごとでも聞いてるの? 早く報告しろだのなんだのって言われたんだけど、なんのこと? どう対処しておくか、一応聞いといてあげる」
あたしは上から目線で言ったが、キリコは「そぉねぇ」と間延びした返事をしながらあたしの手を払った。もったいぶってジュースまで飲んでいる。
「先輩がさぁ、音無花音って生意気だっていうのよ」
「え?」
間の抜けた声を上げるとキリコはあたしをジッと見つめた。
「入れ替わったわたしのことじゃなくて、元々の音無花音のことだからね、念のため」
「そんなのわかってる。どういうことなの」
キリコはそっぽを向いて首をかしげた。
「そのまんまなんじゃない? 生意気って、意味わかんないけど。音無花音をシメてこいっていうんだよね、よりにもよって、霧島桐子に。それができないなら、まずはあんたからシメるっていうんだけど、どうする? あなた、選んでいいよ? 霧島桐子が音無花音をカーストから引きずり落とすか、それとも先輩に音無花音をシメてもらうように頼むのか、それとも霧島桐子が先輩にボコられるのか」
「なんなのそれ」
なんであたしがそんな目に遭わなくちゃいけないの。
はらわた煮えかえる思いなのに、キリコは他人事のようにふわふわしている。そうしてまったく興味なさそうに言い放った。
「どうするのか、あなたに任せるわ」
さっと見たかんじ、部屋の様子は変わってない。
ただ、見慣れぬスマホの充電器とタブレットがある。キリコが自分の家から持ち出したのか?
でも、あたしがそうだったように、音無花音の姿をしていたらキリコの家から勝手に持ち出せるはずがない。それとも、買ってきたのだろうか。
まぁ、いい。あたしは自分の充電器をバッグに入れ、引き出しを探った。
いつも持ち歩いている財布があった。
双葉たちも知ってる財布なので霧島桐子同じ物をが持っているわけにはいかない。中身を全部出して、机の奥にある古い財布に入れ替えた。
「それで満足?」
キリコはローテーブルの前に座り、クッションを抱えてジュースを飲んでいた。
「そっちはいいわよ。足らないものは自由に買い足せるんだから」
「こっちはこっちで大変だよ。音無花音でいるのって、けっこう面倒なのね」
「ふざけないで!」
気づいたらあたしはキリコにつかみかかっていた。だけど目の前にいるのがあたし自身で、複雑な気持ちになる。
「花音?」
階下からお母さんが呼びかけている声が聞こえた。思わず返事をしそうになって口をつぐむ。
「お友達、まだいるの?」
「もう帰るって!」
キリコはドアの方を向いてあたしの声色でそう告げた。すっかりあたしになりきっている。
今まであたしが歩んできた全人生をキリコが引き継いでいることが許せなかった。
あなたは音無花音になっているのだもの。なんの不自由もないでしょうよ。
でも、ここまで楽してやってきたわけじゃないんだから。
あたしはあなたとは違う。
あたしは戦うことから逃げ回ってきたキリコを引き継がなきゃいけない。
「ひとつ確認したいことがある」
あたしがつかみかかったままの体制で聞くと、キリコは「なぁに?」と甘ったるい声で返事した。イラッとする気持ちをどうにか抑え込む。
「きょう、帰りに先輩にからまれた。陸上部で表彰されたこともある先輩もいたグループ」
「ああ」
即座にうなずくキリコには覚えがあるようだった。
「頼まれごとでも聞いてるの? 早く報告しろだのなんだのって言われたんだけど、なんのこと? どう対処しておくか、一応聞いといてあげる」
あたしは上から目線で言ったが、キリコは「そぉねぇ」と間延びした返事をしながらあたしの手を払った。もったいぶってジュースまで飲んでいる。
「先輩がさぁ、音無花音って生意気だっていうのよ」
「え?」
間の抜けた声を上げるとキリコはあたしをジッと見つめた。
「入れ替わったわたしのことじゃなくて、元々の音無花音のことだからね、念のため」
「そんなのわかってる。どういうことなの」
キリコはそっぽを向いて首をかしげた。
「そのまんまなんじゃない? 生意気って、意味わかんないけど。音無花音をシメてこいっていうんだよね、よりにもよって、霧島桐子に。それができないなら、まずはあんたからシメるっていうんだけど、どうする? あなた、選んでいいよ? 霧島桐子が音無花音をカーストから引きずり落とすか、それとも先輩に音無花音をシメてもらうように頼むのか、それとも霧島桐子が先輩にボコられるのか」
「なんなのそれ」
なんであたしがそんな目に遭わなくちゃいけないの。
はらわた煮えかえる思いなのに、キリコは他人事のようにふわふわしている。そうしてまったく興味なさそうに言い放った。
「どうするのか、あなたに任せるわ」



