その時、ガタン…と音を立てて潔木くんが席を立った。
「……うるせぇ。」
立ち上がった彼は機嫌がよろしくないみたいで。座ったまま潔木くんを見上げ、呆然としている私と目を合わせた彼は、長い足を使って私の机をガンッ…と蹴り飛ばした。
「潔木、やめとけ。なんも知らんヒヨっ子やろ?絡むだけ面倒やって。」
後ろの席の関西弁が私のことを庇ってくれたのは意外だったが…潔木くんは未だ私のことを鋭い眼光で睨みつけている。
「邪魔なんだよ、お前」
座っているだけで邪魔だと言われたのは人生で初めてだ。彼が口を開けば開くほど…私の胸は新鮮さを覚え、震える。
「じゃ、邪魔って…何が、」
「──睡眠の、邪魔。」
背の高い彼は腰を折るようして前かがみになり、私と同じ目の高さになるように顔を覗き込んできた…かと思うと、不意に手を伸ばしてきて、顎をグッと掴まれる。
流石に驚いた私は咄嗟に目を瞑った。
──叩かれる
そう思ったのだが、いつまで待っても訪れない痛み。おそるおそる目を開いてみると…
「……え…?っ、んにゅっ?!」
彼は片手で私の両方の頬をムギュ…っと潰すようにして、触れている指先の力を強める。
そのせいで必然的に唇が突き出したような表情を彼に向けるような状態になり…人生で初めて羞恥心というものを覚えた。
「うるさくて眠れねぇ。」
「……んぅ、」
「また俺に話しかけたら…この口、二度と開かねぇように塞いでやる。」
───どうやって?
と尋ねたかったのだが、頬を掴まれているせいで上手く言葉が出てこない。



