【お嬢】と呼ばれ、物心ついた時から強面な男性に囲まれ育ってきた私の名は 多岐川(たきがわ) 律花(りつか)

過保護で心配性な兄を持ち、口うるさい父がいるせいで彼氏なんて出来たことがないまま、気が付けば高校生になっていた。

家柄のこともあり、昔から男女問わず私に刃向かってくるような友人やクラスメイトは存在しなかったのだが─…

そんな私の元に彗星の如く現れた、救世主救世主(推し)


高校の入学式当日、この私に向かって─…


「……おい、退けよ。邪魔。」

なんて冷酷な一言を放ち、ゴミを見るような視線を向けてきた勇者。


「え…もしかして、私に言ってる?」

一応念の為確認を取ってみたのだが……

「お前以外、誰も居ねぇだろ。バカかよ。」

「ばっ…バカって、」


親にも言われたことない!っと感動している私を押しのけるようにして教室へと足を進める男子生徒。

真面目なタイプではないのか、入学式当日だというのに既に制服がかなり着崩されている。


「あの…入学式なら体育館で行われてますよ?」

「……知ってる」

「…もしかして、遅刻したとか?」

「……人のこと、言えねぇーだろ。」

「私は参加出来ない理由があるので…」

「どーでもいい。興味ねぇーよ。」


どうやら私と同じで入学式には参加せずに、教室に直行してきた様子の彼。長身でスタイルがいいせいか…歩いているだけなのに華がある。

黒板に張り出されている座席表を見て窓側の前から3列目の席に腰掛けた彼を見届けてから…自分も同じように座席表を確認する。


「……は?隣?」

「そのようですね。お邪魔します。」


潔木(いさぎ) 北人(ほくと)と書かれた名前の隣にあった多岐川律花という自分の名前を見つけたときは運命というものを本気で感じた瞬間だった。