これ以上、仕事が進むとは思えない。

(明日は土曜日で休みだ、もう帰ろう)

「失礼します」

「ちょっと待って」

つぐみはなんで引き留められるのか不思議だった。

「外は雨が降ってるぞ。傘は持っているのか」

光高の言葉で、窓の外を見ると、しとしと雨が降り始めていた。

(そうだった、夜は雨の予報だった、こんな時間まで仕事をするつもりがなかったから、傘、持ってこなかった)

つぐみは恨めしく空を見上げていた。

「俺、車だから送るよ」

「とんでもありません、社長にご迷惑をかけるわけにはいきませんので、
裏口の傘立てにビニール傘があると思うので、大丈夫です」

「考えることは皆一緒だな、全て出払っていて一本もなかったよ」

「どうしよう」

「迷惑じゃないから、俺を利用しろよ」

「利用だなんて、そんな……」