図書館の地味な女の子は…

窓の外の光が、じわじわと傾きはじめた頃。
いつもならとっくに教室にいるはずの澪の席は、まだぽつんと空いていた。

チャイムが鳴り、授業が始まっても、澪は現れなかった。

(どうしたんだろ……)

祐也はノートを開きながらも、心ここにあらずだった。
澪が遅刻するなんて、今まで一度もなかった。
むしろ毎朝、誰よりも早く教室にいるくらいだったのに。

それだけで、どこか胸がざわついた。

そして、その日の三時間目。
廊下の向こうから、足音が近づいてくる。

ガラッ。

教室のドアが開いた。

ゆっくりと入ってきたのは、春川澪だった。

いつもと同じ、淡々とした足取り。
でも、祐也にはすぐにわかった――どこか、違う。

「春川さん、めずらしいねどうかしたの?」
先生が声をかけると、澪は小さく首を振った。

「……寝坊しました」

たった一言。
それだけで教室はまた、静寂に戻る。

けれど祐也の目は、彼女の左手に釘付けになった。
手の甲に、小さな擦り傷がひとつ。
朝にはなかったはずの、それが――妙に、引っかかった。

(……なんで? どこでそんなの……)

祐也の胸の奥が、じわりと重くなる。
夢だと思っていたあの夜の出来事が、現実のように浮かび上がってくる。

まるであの晩から、何かが少しずつ狂い始めているような――そんな気がしていた。

ーーー放課後