新選組に拾われました☆


六花と一番隊の隊士たちの騒ぎを遠巻きに見ていた山南敬助は、微かに微笑みながら考え込んでいた。

「…… ‘猫が人になる’ とはね。」

彼の呟きに気づいたのは、すぐそばにいた斎藤一だった。

「山南さん、何か知っているんですか?」

斎藤が静かに尋ねると、山南は小さく息を吐いてから、六花に視線を戻した。

「さてね。ただの戯言かもしれないけれど…… ‘変化の術’ というものが、古い文献にあったのを思い出してね。」

「変化の術?」

「簡単に言えば、妖や神獣が人の姿をとる術……もっとも、現実にそんなものがあるとは思っていなかったけれど。」

斎藤は六花の琥珀色の瞳をじっと見つめる。

「……確かに、あり得ない話ではないかもしれませんね。」

***

一番隊の隊士たちの前

「いや、でも待てよ……六花が猫だったってことは、つまり、俺たち……」

「猫に話しかけて、猫に相談して、猫に愚痴聞いてもらってたってことか……?」

「……マジかよ。」

「やっべぇ……俺、六花に ‘恋の相談’ までしてた……!」

「俺なんて……俺なんて…… ‘お前だけは俺の味方だよな’ って泣きながら話しかけてた……!!」

「ぐおぉぉぉおお!恥ずかしい!!!」

「くそっ!六花のやつ、 ‘にゃー’ とか言いながら全部聞いてたんじゃねぇのか!!?」

「待て!六花!お前、俺たちのこと、バカにしてたんじゃねぇだろうな!?」

「え、えっと……」

六花は戸惑いながらも、一歩後ずさる。

「その……にゃー……?」

「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」

「やっぱり六花だぁぁぁぁ!!!」

隊士たちが頭を抱えながら転げ回る中、六花はどう反応していいかわからず、視線を彷徨わせた。

すると、不意に後ろから肩をぽんっと叩かれる。

「さてさて、朝からずいぶん騒がしいじゃないか。」

低く落ち着いた声。

六花が振り向くと、そこには腕を組んだ土方歳三の姿があった。

「てめぇら、屯所の中で騒ぐんじゃねぇ。新選組の名が泣くぞ。」

鋭い眼光に、隊士たちは慌てて姿勢を正した。

「ひ、ひじかたさん……!」

「副長! 実は六花が……!」

「六花が猫から人間に……!」

「猫又とか妖怪とか、そういう類かもしれねぇっス!」

隊士たちが一斉にまくしたてるが、土方は少し眉を寄せながら、六花を見つめた。

「……確かに、お前の雰囲気はどこか六花に似てるな。」

鋭い瞳で見つめられ、六花は少しだけ肩をすくめる。

「そ、そう……かな?」

「……だがな。」

土方はスッと腰の刀に手をかける。

「 ‘猫が人間になる’ なんて話、そう簡単に信じられるかよ。」

ピリ、と空気が張り詰める。

「おい、総司。」

「はいはい、なんですかぁ? 土方さん。」

「お前が ‘こいつは六花だ’ って言うなら……証拠を見せてもらおうじゃねぇか。」

「証拠?」

沖田はにこりと微笑みながら、六花に目を向けた。

「まぁ、つまり、土方さんが納得するような ‘六花らしい’ ことをすればいいんだよねぇ?」

「へっ……?」

六花は思わず沖田を見つめる。

「だ、大丈夫なの……?」

「大丈夫大丈夫。六花は ‘六花’ なんだから、何も心配いらないよぉ?」

沖田の言葉に、六花は少しだけ緊張しながらも、意を決したように拳を握る。

「……わかった!」

土方は腕を組み、静かにその様子を見守っていた。

「さて、六花。」

沖田がにっこりと微笑む。

「みんなの前で、 ‘猫らしさ’ を証明してもらおうか。」

六花の ‘猫らしさ’ とは何か。

土方を納得させる ‘証拠’ とは何か。

そして、六花自身は ‘自分’ を証明できるのか――。

新選組屯所に、静かな緊張が走った。