それからしばらくして、屯所の中庭ではいつもと変わらない日常が戻っていた。隊士たちは朝稽古に励み、屯所のあちこちから威勢のいい掛け声が響いていた。六花は沖田の膝の上で丸くなり、心地よい日差しを浴びながら眠りかけていた。

「……んー、六花はのんびりしてていいねぇ。僕も昼寝したいなぁ。」

沖田は六花の頭を撫でながら欠伸をし、ふと遠くを見つめる。

しかし、その穏やかな時間は突然破られた。

「敵襲――!!!」

屯所の門のほうから、緊迫した叫び声が響き渡る。隊士たちが一斉に刀を手に取り、慌ただしく駆け出していく。

「……あらあら、またですか。」

沖田は軽く溜息をつくと、六花をそっと地面に降ろした。

「六花、お部屋の中でおとなしくしててね。」

そう言うと、沖田は刀を手にし、風のように駆け出していった。

六花はその場にとどまるべきか迷ったが、嫌な胸騒ぎがして、沖田の後をこっそり追いかけることにした。

屯所の門前――。

黒ずくめの男たちが数人、血走った目で新選組の隊士たちを睨んでいた。

「くそったれ……!昨日の借りを返しに来たぜ!」

「テメェらのせいで仲間がやられたんだ……!」

どうやら昨夜、沖田に追い払われた連中が、報復に来たらしい。

「はぁ……。人の家に土足で乗り込んでおいて、礼儀のなってないこと。」

沖田は肩をすくめながら、男たちを見渡す。

「まぁ、いいですけどねぇ。少し遊んであげますよ。」

そう言うと、沖田の表情が一瞬で変わった。笑みは消え、冷たい眼差しが敵を射抜く。

「うおおおおお!!」

男たちが一斉に斬りかかる。

しかし――

シュンッ

一瞬後、沖田の姿が掻き消えた。

「は……?」

男の一人が戸惑う間もなく、次の瞬間にはその喉元に刃が突きつけられていた。

「うるさいですねぇ。」

沖田は無邪気な声で呟きながら、一瞬で男を斬り伏せた。

「くそっ……!こいつ、化け物か……!」

「逃げろ!!」

生き残った者たちは慌てて屯所の外へと走り去っていく。

「……はぁ。つまらないなぁ。」

沖田は刀についた血を払い、軽く肩を回した。

すると、門の陰からそっと覗いていた六花と目が合う。

「……六花?」

六花は驚いたように目を見開いたまま、じっと沖田を見つめていた。

沖田総司。
いつもは気だるげで、飄々としていて、どこか掴みどころのない人。

だけど――
戦っている彼女は、まるで別人のようだった。

「……ん?怖かった?」

沖田が首を傾げる。

六花はしばらく彼女を見つめた後、そっと足元にすり寄った。

「……にゃ。」

「……あれ?そんなことない?」

沖田は一瞬驚いた顔をしたが、すぐにクスクスと笑った。

「ふふ、六花は肝が据わってるねぇ。」

そう言って、優しく撫でる手は、ほんの少し震えていた。

(沖田……。)

六花は、沖田の何かを隠すような笑顔を見て、胸の奥がざわつくのを感じていた。

――この人は、いったいどんな思いを抱えているんだろう?

六花はまだ知らなかった。
この新選組という場所で、沖田総司という人が、どんな運命を背負っているのかを――。