それからしばらくして、夜の屯所は静けさを取り戻していた。六花は沖田総司の布団の上で丸くなり、耳だけをぴくぴく動かしながら眠っていた。沖田も満足げな表情でまどろんでいたが、ふと六花の頭を撫でながらつぶやいた。

「……六花も、色々あったんだろうねぇ。」

まるで何かを見透かすようなその言葉に、六花は尻尾をぴくりと動かした。

翌朝。

屯所は朝稽古の掛け声と、刀と刀が打ち合う音で賑やかになっていた。そんな中、六花は縁側で毛づくろいをしていたが、ふと違和感を覚えて耳を立てた。

――何か、聞こえる。

「……ちっ、また新選組の奴らか。」

「昨夜も斬られたらしいぜ。危ねぇな。」

屯所の外の通りで、小声で話している男たちの声がした。

(……何かよくないことが起きそうな予感がする。)

六花がそう思った瞬間、突然、沖田がふらりと縁側に現れた。

「……六花、今日は屯所の外に出ちゃダメだよ。」

沖田の目はいつものように笑っていたが、どこか鋭く、何かを見据えているようだった。

「にゃ……?」

「ちょっとねぇ……。物騒な話があるみたいだからねぇ。」

そう言いながら沖田は軽やかに刀を持ち上げ、そのまま屯所の門のほうへと歩いていった。

六花はその背中を見送ったが、どうにも落ち着かない。

(……嫌な予感がする。)

しばらくして。

屯所の門の外から、怒号と刀のぶつかり合う音が聞こえてきた。

「くそっ!新選組の奴らめ!」

「おい、引け!沖田総司がいるぞ!」

「ちっ、またあいつか……!」

男たちの声とともに、駆け出す足音が響いた。

しばらくすると、沖田が門の外から戻ってきた。その着物の袖には血が飛び散っていたが、本人はいつもの調子で、のんびりとした口調でつぶやいた。

「……ふぅ。ちょっと走ったら疲れちゃいましたねぇ。」

六花はその足元に擦り寄ると、沖田はふっと微笑んでしゃがみ込み、六花の頭を撫でた。

「大丈夫だよ。ちゃんと守ってあげるから。」

六花は沖田の手のぬくもりを感じながら、ようやく少しだけ安心した。

だが、これがまだ始まりに過ぎないことを、この時の六花は知らなかった――。