「ローレンスさま。東屋とはいえ、人目があります、から……!」
「君は俺の婚約者なんだ。誰に見られても構わない。俺たちの婚約は、すでに国王陛下に承認されている。ヴィオラを愛でていけない理由は何一つないだろう?」

 背中から抱きしめられた格好のヴィオラは耳まで赤く染め上げたまま、うう、と口をすぼめた。ローレンスは腕の中に閉じ込めた婚約者の銀灰色の髪の一房を持ち上げ、そっと触れるように唇を寄せる。
 その瞬間、東屋を遠巻きに見ていたギャラリーの女生徒から黄色い悲鳴が上がった。
 背後の声に満足したのか、ローレンスは婚約者を大理石の椅子まで優雅にエスコートする。一方のヴィオラは太鼓のように激しく鳴る自分の心音が耳で反響し、外野の声まで聞き取る余裕はなかった。

「ねえ、ヴィオラ。今日はどれから食べる? 俺が食べさせてあげるね」
「……では、レモンメレンゲパイから……お願いします」