車内は静かで、少しのエンジン音が耳に入る程度。
ここでくしゃみをひとつしてしまえば、確実に馬鹿でかく響くに違いない。
……それにしても、今日も疲れたなぁ。
なんと言っても負担にくるのは目なんだけど。
「つぼみお嬢様」
目頭を軽く摘みながら一息ついていた私に、鈴木さんがバックミラー越しから話しかけてきた。
「編入して一ヶ月ほど経ちましたが、学園はいかがですか? なんだかお疲れのご様子ですが」
「そうですね……とは言っても高等部一年以外は小中とこの学園ですから、それほど気疲れはしませんよ」
私は高等部二年生。高等部一年の間は学園に通ってはおらず、ほとんどの期間を海外で過ごしていた。
「左様でございますか。なにか不便がございましたら、すぐにおっしゃってくださいね」
「はい、ありがとうございます。鈴木さん」
ふわりと柔らかく微笑む鈴木さんに、私もにこりと返した。
口元だけ笑っている状態だし、鈴木さんからすると不気味極まりないだろう。
しかし鈴木さんはそんな素振りを何ひとつも見せずいつもの表情のままだった。流石プロ。プロフェッショナルだわ。
それからほどなくして、きゅっとブレーキがかかり、車が停車する。学園を出て十五分ほど経ったところで、家に到着した。
「お足元にお気をつけください」
無駄のない動きと立ち振る舞いで車の扉を開ける鈴木さん。
車を降りて足を進めると、エントランスの近くで手入れをしていた庭師の木村さん会った。
「お疲れ様です、木村さん」
「おお、お嬢様。お帰りなさいませ」
「いつもお手入れありがとうございます」
日照りが弱くなったとはいえ、朝から庭の手入れをしている木村さんに、私は労いの言葉をかけて家に入る。
木村さんの手にかかれば、草花も生き生きして見えるのは気のせいじゃないと思う。
……自慢じゃないんだけど、私の家はかなり広い。それはもう億劫になるくらいにはバカでかい。
そのため、家を使用人と呼ばれるメイドや執事の数も多くなる。ざっと百は超えているはず、うん。
「あ……お、お帰りなさいませ! つぼみお嬢様っ」
自室へと続く廊下を歩いていると、どこからともなく現れた影に勢いよく頭を下げられた。
「ただ今帰りました。お疲れ様です、野上さん」
新人メイドの野上りかさん。彼女は私の一つ上で、メイドさんの中じゃ一番の若手だ。
心の中ではりっちゃんと呼んでいる。これは秘密だけど。
りっちゃんは他のメイドさんと違って分かりやすく嫌悪感を出さないで接してくれるから、気が楽で安心する。
ほとんどのメイドさんたちからの私の印象は、やっぱり出来損ないの落ちこぼれ。
顔を合わせれば、腫れ物のように扱っているのが表情で丸分かりなのだ。



