「……あっ、うそ。もうこんな時間っ」
お弁当を食べながら頭の中でしばらく考えごとをしていると、もう数分で昼休みが終わることに気がついた。
いけない、教室に戻らないと。
落ちこぼれでも授業は受けなきゃいけない。むしろ落ちこぼれだから授業ぐらいは真面目に受けている姿勢を見せないとというか。
私は急いでお弁当箱を鞄にしまい、風で乱れた髪を整える。
やっぱりこの前髪が鬱陶しくて、少しだけ眉を顰ませた。
稀に毛先が目に入るんだよね、それが痛いのなんのって。入ったときは涙が出てくるし。
「よし、残り半日……頑張るか」
教室の扉をゆっくり開けると、すでに教師の姿があり、出席名簿に目を通している最中だった。
「すみません、遅くなりました」
私の声に教室中の視線が注がれる。その目はどこか冷たく、嘲たものが含まれていた。
……居心地悪い。
「零条士……いや、早く席に着きなさい」
「はい」
教師は私を見ると一瞬不快な顔をしたけれど、すぐにもとの表情に戻した。
私はよく嫌味を言われても、本格的に虐められているわけじゃない。そもそも今どき目立ってそんなことをしたら大問題だし。
ただ、鬱陶しく思われてるのは事実だろう。
あんなに出来の良い双子の姉と、出来の悪い双子の妹。見事に対照的なふたりだから。
比較的小さな会社のご令嬢なら、上の立場を利用した生徒から陰湿な嫌がらせにあっていたかもしれない。
『由緒正しい金持ち学校』と世間様から称される白蘭学園だけど、育ちが良くてもおしとやかな人だけとは限らない。
かなり……それはもう、かなり性格がねじ曲がった生徒も在学しちゃっている。
特待制度で一般家庭の生徒もいるというのに残念な話だけど、それが現実である。
「…………」
窓側の一番後ろ、そこが私の席だ。
ちなみに授業は一切聞けていない。
いや、だって。黒板を見たくても前髪が長過ぎてほぼ見えないんだよ!
最初は頑張って目を凝らして、前髪のほんの少しの隙間から見ていたけど今はもうギブアップ。
結果、授業中に何もすることがない私は横目で窓の外の景色を眺めるしかなかった。
今日は天気が良い。ときおり、窓際をゆったり通過する鳥が気持ち良さそうに羽根を広げていた。
自由に羽ばたくその姿に自然と惹かれ目に焼き付けながら、ふっとまぶたを閉じる。
「…………」
落ちこぼれ、出来損ない。
カエルのお姫様。
零条士家のお荷物。
多くのレッテルが、学園内で貼られている。
――それでいい。
双子の妹は落ちこぼれ、双子の姉は優秀で完壁。そう他者に思われている。
――これでいい。
落ちこぼれのカエルのお姫様。
それはすべて、思惑通りの結果だから。
*カエルの子、落ちこぼれ。*



