私は姉である鈴蘭と、取り巻く生徒会役員を避けるようにホールを後にした。
時刻はちょうど昼休みで、生徒たちの休息の時間。
鈴蘭と生徒会は、きっとテラスなんかで食事を摂るんだろう。
鈴蘭に喜んでもらえるように、わざわざ一流シェフを目の前に呼んで。
けれどそんなこと、白蘭学園じゃ結構普通のようで。舌の肥えた家柄良いの生徒が多く在学するから、その対応策なんだそうだ。
「あ、カエルがいるわあ」
「本当だぁ、やだぁ~! 移っちゃ〜う」
廊下を黙々と歩いていると、離れた場所に立っている女子生徒たちが私を見てニヤニヤと嘲笑した。
……移るか。カエルでなにが移るって言うのさ。
色? 緑? 緑色が移るって?
と、内心では考えているわけだけど、それを口にすることは絶対にない。
カエルとは、お察しのとおり私のことだ。
あだ名の由来は、鈴蘭を『シンデレラ』のように美しく恵まれたお姫様だとすると。
私は異国の古い童話で描かれたカエルにされて婚約者の王子にも気づかれなかったという、哀れな『カエルのお姫様』にピッタリなんだそうだ。
ああ、それでもお姫様ではあるんだね。
付けられたときはまずそこに突っ込んじゃったわ。
私はお姫様なんて柄じゃないけど、腐っても世界最高クラスの財閥に入る『零条士家』の令嬢って言いたいんだろう。それが逆に皮肉っぽいよね。
鈴蘭があんなに有名人だと、私もまったく反対の意味で悪目立ちする。
なにせ私は、不気味な容姿と成績最下位という"残念な設定"を持ち合わせているから。
だからさっきみたいに私に突っかかってくる生徒も少なくはない。
でも、そんな言葉にいちいち気にしてられるかっての。
「シェルター行こ」
学園で居心地が悪いとき、私が非難する場所。
と言っても、ただの屋上だけどね。
大抵の金持ちの生徒は、わざわざお昼に屋上まで行かない。
高級レストランかと突っ込みを入れたくなる食堂で、専属のシェフを連れて来るか、学園が準備した高級フルコースを食するかだ。
屋上に出入りするような人物は、私が知る限り一人だけだと思う。
「……ふぅ」
屋上の扉を開けると、制服のスカートが風を孕んではたはたと音を立てた。
温かくて心地よい風が髪を優しく撫でる。
春だなぁ、なんて思いながら私は屋上に設置されるベンチまで歩いていく。



