廊下を進み、ひとつの扉の前まで来る。
私がメモリーカードを持って向かった先は、お父さんがいる書斎室だ。
「失礼します」
入ると、視界の端にある本棚でなにやら調べ物をしているお父さんの姿が映った。
スーツを正しく着こなし、背筋が伸びだ佇まいは、零条士グループ現社長の風格が感じられる。
「……」
だけど、私の存在にまったく気づいていない。
お父さんも私と同じで、なにかに打ち込むと周りが見えなくなる性質らしい。
私は苦笑を浮かべながら近づくと、メモリーカードを取り出した。
「お父さん、これ。まとめて置いたよ」
「つぼみ? 来ていたのか」
「ノックしたんだけど、聞こえなかった?」
「ああ、すまない。助かるよ」
お父さんは微笑んでメモリーカードを受け取ると、私の顔をじっと見つめてきた。
「……学園のほうは慣れたか?」
「ふふ。それ鈴木さんにも聞かれたな。大丈夫、変わりないよ」
いつも思うけど鈴木さんとお父さんって、性格が似てるところがあるよね。
話の入り方とか、その内容とか。
私を気遣ったような話し方をしてくれるんだ。
「じゃ、それ渡したから。ちょっとコタツと遊んで来るね」
「コタツなら、木村さんの後ろを着いて歩いて行ったぞ?」
コタツのやつ、木村さんに随分と懐いてるな。
「そっか、じゃあ外かな」
お父さんの話を聞いて、書斎を出ようと扉の取っ手に触れたときだった。
「……つぼみ、すまない」
私の背中に、ひとつの苦い声が飛んでくる。
ぴくりとわずかに震えた肩を隠して、私は顔だけをお父さんのほうへ向ける。
「お父さん、なにか言った?」
「……いや。なにもないよ」
「そっか」
私は聞こえなかったフリをして、そそくさに書斎を出て行く。
ぱたんと閉めた扉に背を預けた私は、綺麗に磨かれた床を見下ろしてついため息を漏らした。
「……はぁ」
まったくもう、お父さんは。
私がそんなふうに謝られるのが嫌だって、知っているくせに。
「本当に、私なんかに謝る必要なんて――」
なにひとつもないのに。
*カエルの子、実力発揮する*



