零条士つぼみは、落ちこぼれ。
それは私自身が作った人物像だった。
でも、本当のところある程度の教養はだいたい頭に入っている。
そうじゃないとお父さんの仕事を手伝うなんて出来ないからね。
こんなギーボード二面打ちでカタカタしている姿を他人が見たら、落ちこぼれとはほど遠く思われるかもしれないが。
つまり私は"落ちこぼれ"を演じている。
この事実を知るのは、私が認めた人たちだけ。
だからお母さんも、鈴蘭も、本当の私を知らない。
血の繋がった人で知っているのはお父さんと、祖父だけだ。
あとは落ちこぼれ云々の前に、6歳以前の幼少期時代の私を知っている人たちも、この屋敷には少なからずいる。
先ほど会った庭師の木村さんに、執事長でハウススチュワードの鈴木さん。それに、メイド長の馬場さんだ。
そのほかに私の事情を知る人がいるとしたら、零条士の利益に必要性を感じた人とか……?
なので学園内の生徒が知っていることはまずなかった。
「んんー、終わった!」
約一時間後。紙の束をすべて片付けた私は、椅子にもたれ掛かりながら肩をほぐした。
窓の外から窺える日差しはすっかり傾き始めている。
机仕事の時間は、本気で他のことに関心がいかない。誰かがノックしてきても、高確率でその音は耳からすり抜けるだろう。
そもそも私の部屋に来る人なんて、これまた限られてるけど。
「よし、完了っと」
私はたった今打ち込んだデータをメモリーカードに移して席を立った。
一仕事終えたあとはいつも何か甘い物食べたい衝動に駆られるけど、その前にこれを渡しに行こう。
私は鏡の前で自分の姿を確認し、長い前髪を下ろして顔の半分を覆い隠した。
やっぱり前髪上げると、癖の付き方が半端ない。
微妙に前髪が浮いてるし、変な方向に曲がってる。
仕方がないので洗面所で前髪濡らし、ぺたりと纏める。
「これで大丈夫かな?」
もう一度鏡を確認した私は、今度こそ部屋を後にした。



