【完結保証】シェアルームには私を振ったアイツがいる

「フラれてた、んだ?」

 その清水くんの言葉に私は頷いた。

 リビングでは話が聞かれてしまうため、私は、いや私たちは清水くんの部屋のソファーに座っていた。氷の入ったアイスティーをかき混ぜながら、ゴクリと飲むと机に置く。

「だから、苦手というより……気まずい、という感覚が近いかもしれません。向こうはたぶん、たくさんの人から告白されてたから、私のことなんてぜんぜん覚えてないと……思いますけど」

 そこまで話して、清水くんは腕を組んで少し考えていた。
情けなくて涙が浮かびそうになったが、もうこれ以上は絶対に泣くものかと必死で堪える。

「……そういう事情があったなら、確かに気まずくなるかもね」

 そこまでいうと清水くんはアイスティーを持ち、くるくると氷をかき混ぜながらため息をついた。

「それ以降、ちょっと男性を直視できなくなりまして」
「ああ、なるほどね。ってことは……俺もか」

 ゴクリと飲み、視線を思い切り外している私のことを、彼はどう思っているのだろうか。

「うん、事情はわかったから、いいよ。今後は挨拶程度でいいしさ。俺は俺でちゃんと自分で料理やるように頑張ってみる。無理をいって、本当にごめんね」

 違う、違うのに。
 やっぱり伝わっていない。
 私は清水くんを、何より江口先輩そのものを拒否したいわけではない。

 気遣う言葉は、かえって私の胸をえぐる。

「違うんです」

 伝わらないもどかしさで、とうとう私は少しだけ声を荒げてしまった。
胸の奥からこみ上げる痺れる苦しさと、目頭の熱さをこらえ、ぎゅっと手の平を握った。

「お願いするのは、私の方です。慣れるように努力したいので……料理も一緒につくるので、協力、してもらえませんか」

「協力?」

 ちらりと一瞬だけ、清水くんを見やる。
想定通り、怪訝な顔をしていた。目の前のグラスへ視線を戻す。

「いや、何かしてほしい、ってわけじゃないです。ただ、一緒に料理をしてくれれば。それ以降、ずっと男性を直視できないことで、困ってるんです。だから、直したいだけです」

「……そのくらいなら、別に」

 そこまでいって、私はあれ、と思った。
 よくよく机に置かれたグラスを見れば、これは清水くんのものでは?

 ……じゃあ、清水くんが今、手に持っているグラスは……もしかして。

 間違いない、さっき私が使っていたヤツだ。
どうしよう、これ……申し出た方がいいのだろうか。

 私の頭の中で大変な竜巻が、ハリケーンが、台風が吹きすさんでいる。