【完結保証】シェアルームには私を振ったアイツがいる

「過去に告白して振られています、きちんと、気持ちを清算しました。……だから、もう好きじゃありません。安心してもらえますか……」

 私と江口先輩はリビングにいた。
 二人きりで、今がチャンスとばかりに私から意を決して切り出したのだ。

 突然の私の発言に、江口先輩はやはりというべきか眉を(ひそ)める。

 ぐっと歩み寄ってくると、マジマジと私の顔を見つめ、思い出したかのようにああ、といった。その間、私はどきどきとしながら、手のひらを固く結んで。

「……思い出した。高校の頃! 生徒会の! あー、芋っぽい会計の子、だったっけ。そうだ、最初にどっかで見たような気もしてたし。でも、あの時にメガネをかけてなかったっけ? コンタクトにした?」

「そうです……あの時から、だいぶ変わりました」

 変えるようにした、というのが正解だけれども。

 コンタクトにして外見も努力し変えた。服装も、メイクも、なにもかも。それは、先輩にいわれたからでなく、私のためにだ。

 ……さりげなく芋っぽいといっていたけれども、そこはスルーした。

 あれこれと聞かれて、やや気負いしながら先輩を追ってここにきたわけではない、偶然だと念を押す。

「んー……まあ、そっか。偶然なら別に。それに当時はね……」
「覚えて、ましたか」

「うんうん、なんとなく覚えてる。今は5点だよ。確かに告白してくれたよね、ずっと好きだったとか何とか……。でも、当時何点って俺いってた?」

「……当時18点っていわれました。でも、江口先輩、今は5点――、え、え? 下がってます?」

 信じられず思わず私は江口先輩の顔を見た。
 あれから必死の努力をしたのに……?

「だってさぁ、ここきた当初から俺に対する態度悪かったし。前の方がまだマシだったよ。一生懸命、仕事してくれたしさぁ」

「……あっ……ですよね」 

 思わず笑いが込み上げる。
 先輩の採点は相変わらず厳しい。江口先輩は相変わらず、先輩だ。

 じんわりと私の中で、嬉しいという感情が広がっていく。
 過去最高に、とても嬉しいという感情が。 

 そして点数が前より低かったことも相まって。
 それはもう私の中では構わないと思えることが。

 先輩の顔立ちは随分とあの当時と変わっていて、大人びていたし、さらにカッコよくなっていたと思う。けれど、それだけだ。当時のときめきや、切なさも苦しさもない。

――それほどに、私はもう江口先輩のことを整理しきっていたのだ。

 よかった。

 私はもう別れることができた。
 好きだった人への感情と。
 そして過去の――私から。

「江口先輩、今の、採点……5点で嬉しいです。本当にありがとうございました」

 思わず浮かべた笑顔で伝えると、江口先輩は到底理解できないといった表情で――私を眺めていた。