「怒ってないです」
「でもなんか、眉間にシワが」
清水くんはビニール手袋を外すと、私の眉間をツンと指でつついた。
「本当はラップをして冷蔵庫で30分ほど寝かせたほうがいいんですけど、もういい時間ですし焼いちゃいましょう」
頬の熱を誤魔化すように席をたって、”アイスティーを飲みに行きました風”を装った。
「あまり大きくしすぎると中まで焼けませんし」
フライパンを出し、タネを成形し並べていく。真ん中あたりを押してへこませ、ぐにゃっと歪む。
「この作業は真ん中の火を通りやすくするためですよ」
「やるよ」
フライパンの上のタネの中央を押す。力が強すぎたのか、ハンバーグのたねは割れてしまった。ちょっとだけ悔しそうな表情を浮かべ、清水くんは手で丁寧に楕円形へと戻していく。思わず笑みがこぼれる。
コンロに火をかける。焼きあがるときに焦げ目をつけるよう、ひっくり返して様子をみた。もう大丈夫そうだ。菜箸で一つだけ取り出し、皿に盛る。小ぶりな箸に持ち替えふうふうと息を吹きかけた。
「良さそうです、こちら、ちょっと食べてみますか?」
横に立っていた、清水くんに箸の先のハンバーグを向ける。すると清水くんは躊躇したのち、箸の先にあったハンバーグのかけらを自身の口に放り込んだ。……ん、これって、なんだか。
……所轄「あーん」という、恋人同士がやるヤツでは。
「うん、おいしい」
……たぶん、気づいている。だからさっき躊躇したんだ。いわれたから引けないというか、言わなかったのは私に気を使ってくれただけで……これは恥ずかしかったはずだ。その証明をするように清水くんはほんのりと頬を染めつつ、戸惑いがちに私を見てきた。
「美味しい、ですか……」
どうしよう、どうしよう。
まだハンバーグは1口ぶん残っている。でもこれ、清水くんに食べてもらわないと、なにせ箸が。私が食べるわけにも……。
「じゃあこっちも……」
私は腹をくくった。もう1回、箸にとって清水くんへとハンバーグのかけらを差し出す。清水くんは照れつつ、食べてくれた、けど。
「……美味しい、です」
……清水くんが再び敬語になってしまった。照れると敬語になるのかも。というか、そうだった。恥ずかしいのは私よりも食べさせられた清水くんだったのかも。今頃気づいたけど、箸を本人に渡せばよかった、なんてことをさせてしまったのか。申し訳なさが勝る。
ごめんなさい、じゃあ私にもどうかハンバーグを食べさせてください、とでも? いや、それはそれで恐ろしい事態に、バカップルじゃないんだから。清水くんは手の甲で口元を隠すようにして視線を私から外している。なんだか可愛らしく――じゃなかった、ごめんなさい……と何度も心で謝りながらもハンバーグの焼ける音だけがキッチンを支配していた。
「でもなんか、眉間にシワが」
清水くんはビニール手袋を外すと、私の眉間をツンと指でつついた。
「本当はラップをして冷蔵庫で30分ほど寝かせたほうがいいんですけど、もういい時間ですし焼いちゃいましょう」
頬の熱を誤魔化すように席をたって、”アイスティーを飲みに行きました風”を装った。
「あまり大きくしすぎると中まで焼けませんし」
フライパンを出し、タネを成形し並べていく。真ん中あたりを押してへこませ、ぐにゃっと歪む。
「この作業は真ん中の火を通りやすくするためですよ」
「やるよ」
フライパンの上のタネの中央を押す。力が強すぎたのか、ハンバーグのたねは割れてしまった。ちょっとだけ悔しそうな表情を浮かべ、清水くんは手で丁寧に楕円形へと戻していく。思わず笑みがこぼれる。
コンロに火をかける。焼きあがるときに焦げ目をつけるよう、ひっくり返して様子をみた。もう大丈夫そうだ。菜箸で一つだけ取り出し、皿に盛る。小ぶりな箸に持ち替えふうふうと息を吹きかけた。
「良さそうです、こちら、ちょっと食べてみますか?」
横に立っていた、清水くんに箸の先のハンバーグを向ける。すると清水くんは躊躇したのち、箸の先にあったハンバーグのかけらを自身の口に放り込んだ。……ん、これって、なんだか。
……所轄「あーん」という、恋人同士がやるヤツでは。
「うん、おいしい」
……たぶん、気づいている。だからさっき躊躇したんだ。いわれたから引けないというか、言わなかったのは私に気を使ってくれただけで……これは恥ずかしかったはずだ。その証明をするように清水くんはほんのりと頬を染めつつ、戸惑いがちに私を見てきた。
「美味しい、ですか……」
どうしよう、どうしよう。
まだハンバーグは1口ぶん残っている。でもこれ、清水くんに食べてもらわないと、なにせ箸が。私が食べるわけにも……。
「じゃあこっちも……」
私は腹をくくった。もう1回、箸にとって清水くんへとハンバーグのかけらを差し出す。清水くんは照れつつ、食べてくれた、けど。
「……美味しい、です」
……清水くんが再び敬語になってしまった。照れると敬語になるのかも。というか、そうだった。恥ずかしいのは私よりも食べさせられた清水くんだったのかも。今頃気づいたけど、箸を本人に渡せばよかった、なんてことをさせてしまったのか。申し訳なさが勝る。
ごめんなさい、じゃあ私にもどうかハンバーグを食べさせてください、とでも? いや、それはそれで恐ろしい事態に、バカップルじゃないんだから。清水くんは手の甲で口元を隠すようにして視線を私から外している。なんだか可愛らしく――じゃなかった、ごめんなさい……と何度も心で謝りながらもハンバーグの焼ける音だけがキッチンを支配していた。


